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Banana Recipes

漫画 BANANA FISH の2次創作ブログです。 BANANA FISH 好きの皆様と仲良くしていただければ嬉しいです♪一部BL・R18あります。ご注意を。

「君達の関係は友達というには深すぎる。」

伊部が真面目な顔をしてアッシュに言った。

NYの片隅にある総合病院。その李家の息のかかった病院にアッシュは入院していた。彼は対外的には死亡したことになっていた。なぜ李家縁(ゆかり)の病院にユーシスが自分を搬送させたのかはアッシュは知らない。これ以上他グループとチャイニーズとの関係を悪化させないため、アッシュを刺したラオとチャイニーズは関係がないとのパフォーマンスなのか、それとも別の思惑があるのか。

一度は日本へ帰国した伊部と英二もまた、アッシュ危篤の連絡を受けて慌ててこちらに戻ってきた。一度ビザ切れを起こした2人がすばやく再入国できたのも李家の手引きがあったからに違いない。
アッシュは生死の淵を彷徨ったものの、2人が到着した頃には術後の経過も良好で意識も回復していた。安心した英二はその場で倒れた。
英二の腹膜をかすった銃創はまだ直りきっておらず、無理を押してのフライトに傷口がもう一度開いて出血したのだ。英二はアッシュと同じ病院に入院することになった。
元気になったら帰国しようと、軽く提案した伊部に、英二は強い拒否の意を示した。

『僕は帰りません。』

伊部は英二を説得した。
もう解決したはずだ。アッシュを支配していたコルシカマフィアがバナナフィッシュの機密を抱えたまま火の海に落ちた。アッシュは開放されたのだ。長年の支配としがらみ、そして兄の為の報復から。だから退院したら日本に帰ろうと。どんなになだめすかしても英二はうんとは言わなかった。一人でもアメリカに残ると言う。
何を言っても首を縦に振らない英二に、日本に仕事を残した伊部はとうとう諦めた。だが、伊部には思うところがある。
英二を一人残すのであれば確認して置きたいことがあった。どうしても。

英二が入院して数日後。
アッシュの病室を訪れた伊部はアッシュのベッドサイドにあった椅子を引き寄せ座り、軽い世間話をした後、英二がアメリカに残りたがっている旨をアッシュに伝えた。
そして、意を決したようにアッシュの目を見て言ったのだ。


「君達の関係は友達というには深すぎる。」
アッシュは一瞬虚をつかれた。
「・・・・俺たちは別に、」
「わかってる。そういう関係でないって事はね。」
「・・・・。」
「ただ、お互いがお互いを求める強さはただの恋人以上に見える。僕や僕の恋人なんかよりずっとね。」
黙っているアッシュに向けて伊部は淡々と語る。
「英二は優しい。あの子は決めたらテコでも動かない所もあるが、好感をもった者、近しい人の行動や感情には流されやすい面がある。」
伊部はアッシュから目線を外し、逡巡した後もう一度アッシュを見つめはっきりとこう言った。
「君は大丈夫か。」

俺はー。

しばしの沈黙の後アッシュが答える。
「俺たちの心配をするより、あんたの彼女の心配をした方がいーんじゃねーの?何年放ってんだよ。」
「アハハハ。それを言われるとマイッチャウなー。」
伊部が場にそぐわない笑い声をたてた。だが2人の間に流れていた緊張がやわらぐ。
その時病室のドアが開かれ、英二が点滴を押しながら入ってきた。
「何話してるの?」
「英二?」
「英ちゃん。また・・。」
伊部が椅子から立ち上がり慌てて英二に手を差し伸べる。
「ダメじゃないか、数日は安静にしておくようにって先生に言われたろ?」
「はぁ。でも僕。結構元気ですよ。」
「そんな事言って、昨日この病室から帰った後熱を出したって聞いたよ。」
「あれは・・。」
「英二。あんまりイベを心配させるな。オッサンは年に似合わず苦労性だからな。」
「・・・・」
アッシュに言われて英二は黙り込んだ。黙った英二にアッシュが畳み掛ける。
「医者からいいって言われるまでこっちに来るな。」
「僕は君が心配で・・。」
「まず自分の体の心配をしろ。」
「・・・。」
きつい口調でたしなめるアッシュともう一度黙り込んだ英二の間にやんわりと伊部が割って入る。
「英ちゃん。アッシュもそう言ってるし、とりあえず病室に帰ろう。な?」
英二を促して病室を出ようとした伊部にアッシュが声をかけた。
「イベサン。さっきの話。俺は大丈夫だ。」
「・・・信じてるよ。」
「あんまり心配しすぎるとハゲるぜ?」
「何の話?」
「いいから。英ちゃん。元気になったら教えてあげるよ。」
伊部に肩を軽く押され病室を出た英二が、扉が閉まる前にアッシュを伺った。英二とアッシュの視線が絡む。それを遮るように扉が閉められた。
「ー?」
英二の表情がアッシュの頭に残る。その顔はどこか不安気だった。

アッシュの病室は病棟の最上階一番奥の個室だった。世間や警察に顔が知れているアッシュが、万が一にも顔を指されないようにとの李家側の配慮だろう。
2人のいなくなった病室は静かでどこか寂しげだ。
一人になると疲労感が襲ってくる。まだまだ体力は回復しないようだ。実際一人では立てない。

意識が回復してからここ数日の色々な事が頭を巡る。

マックスが頻繁に見舞いにやってくる。
まずアッシュの意識が回復した日にやって来た彼は、『警察にはバレてはいないはずだ。早く元気になれ。』とそう言ってアッシュを励ました。
後はとりとめもない事を一人で話して帰っていく。ジェシカとはよりを戻したようだった。マイケルがアッシュに会いたいと言っているらしい。今日も『でもお前死んだことになってるからなぁ。』とブツブツ言って帰っていった。

『安心して休むといいよー』
わざわざ人のいない時を見計らって見舞いだと称してやってきたユーシスが、口の端に薄い笑みを浮かべて言った言葉を信じているわけではなかった。
『あと預かっていたこれ。』
預けていた覚えはないが、後ろに控えていた彼の部下が枕元のサイドボードにコトリと置いたのは、アッシュの愛銃と一通の手紙。アッシュは苦い気持ちになった。

なるべく早くここを、出たい。

そう思うが体がついて来なかった。
この傷で立てると思う方がどうかしていると医者には言われたばかりだが・・。
これまでのアッシュは生き延びたければどんな怪我でも早く自分の足で立たなけれはならなかった。だが長年自分を支配してきたコルシカマフィアが死んで、気でも抜けたのだろうか。今回は立てない。
ゴルツィネの最期が映像のように頭をよぎる。あの男は何を思っていたのだろうか。そして自分は・・。

「俺はあんたに何て言ったらいいか・・」
仲間の目を盗んでやってきたシンは、アッシュの目を見ずに謝った。
ー仲間から裏切り者を出した。
ーボス同士の決着をつける前に自分の兄弟にアッシュを殺らせようとした。
今やシンとチャイニーズの評判は地に落ちた。これからシンがボスの座に居続けるのであれば大変な苦労をするだろう。
そんなシンにアッシュは何も言わなかった。英二の様子を見てくれ。自分はここから動けないから。とだけ口にした。

そして英二。
シンに英二を頼んだのには理由がある。
出血して倒れた英二は、すぐさま治療され、別の病室で入院していた。
医者にはまだ一人で立つことを許されているわけではないが、毎日アッシュの様子を伺いに来る。
その様子が少しおかしいのだ。どこがとはっきりとは言えないのだが・・・。

アッシュは深いため息をついた。

それから先程の伊部の言葉ー。

『君達の関係は友達というには深すぎる。』

俺が英二と?

伊部はそう言いたいのだろう。
アッシュはこれまでそんな事は考えたことがなかった。

馬鹿な話だ。

アッシュは一蹴する。
ともかく入院しているにも関わらず、息をつく暇がない。
アッシュはゆっくりと目を閉じた。
睡魔がゆっくりと押し寄せてくる。昼間あんなに眠ったのに、薬のせいだろうか・・。
眠くなる薬は嫌いだ。いざと言う時に立てない。
アレックス達はどうしてるのだろうか、シンに聞いておけばよかった。
先程の英二の表情が頭をかすめる。

ーそういえば、再会してからこっち、アイツの笑った顔をみてないな・・。

グルグルと取り留めのない事を考えながらアッシュは知らぬ間に眠りについていった。


*********************************************

夢の中で英二がアッシュの名前を呼んでいた。
アッシュはそれに答える。
だが英二にはアッシュの声が聞こえないようだ。
英二はまだ自分の名前を呼び続けている。
それはとても哀しい声だった。
アッシュはより大きな声を出そうとするが、喉から声が上手く出ない。

ー英二。俺はここだ。英二?

「・・アッシュ。」
「?」

夢か。

目を覚ますと英二がベッドの横に座っていた。アッシュは夢だった事にホッとする。
寝汗を搔いたのか、背中が濡れたようで気持ちが悪い。額には汗が浮かんでいた。
深夜の病室は電気が消されていて、自分を覗き込んでいる英二の表情ははっきりと見えない。
アッシュは英二に向かって手を伸ばした。英二がその手をそっと握る。

また病室を抜け出したのか・・。

「何時だ?」
「3時過ぎたところかな?」
「自分のベッドに戻れ。おまえ感染症を起こしたらどうなるかわかってんのか?」
「・・・うん。」
しかし英二は動かない。アッシュの手を握り締め、じっとその手を見ていた。
やはり再会してから英二の様子がおかしい。以前から英二はいつも自分の心配をしていた。だが、それとは別に何か気になることでもあるのか、いつもの彼とは何かが違う。
アッシュはベッドの上で軽いため息をついた。
英二を連れて彼の病室に行きたい。しかしまだそこまで体調が回復していなかった。そんな自分の体が不甲斐ない。
「どうした?」
「夢を見るんだ。」
「夢?」
「うん。入院してからずっと。」
「どんな。」
少し黙った後、英二はぽつりぽつりと話し始めた。
「・・僕は日本にいて、君が撃たれたと聞いてこっちに戻ってきたんだ。そしたら皆が・・・。君が死んだっていうんだ。」
英二は黒いまつげを瞬かせ、ただ静かに話し続ける。
「僕は信じられなくて。NY中を探すんだけど、君はいなくて。皆が僕を止めるんだ。君を探すなって。もういないからって。でも僕は写真を撮るフリをして君を探し続ける。どこを撮っても何枚撮っても何年経っても君はいなくて・・。」
アッシュは胸をつかれた。
自分の手を握り締める英二の手が微かに震えているようだ。
「君がここにいてよかった。」
英二は握っているアッシュの手を自分の頬につけた。
2人の間に沈黙が流れる。しかし2人ともそれを沈黙とは認識しない。
それは沈黙ではなく、かといってもちろん会話でもなく。ただ2人の間に当然のようにあるものだった。
先に口を開いたのはアッシュだ。
「英二。」
アッシュは英二に握られた手を強く握り返した。
自然と英二の頬から2人の手が離れる。
「悪かった。」
その言葉に、英二が目を見開き半分口を開けた。驚いて声もでないようだ。

何だそのアホづらは。

「君が謝るなんて。やめてよ縁起でもない。」
「・・・お前。自分のベッドにさっさと帰れ。」
握られた手を投げるように離したアッシュに英二が声をかけた。
「アッシュ。」
「まだなんかあんのかよ。」
「ハグしていい?」
「・・・・」
英二は返事を待たなかった。動けないアッシュの体を慎重に覆い、抱きしめた。その存在を確かめるように・・・。
アッシュも英二の背に腕を回す。
アッシュの肩に顔をうずめながら英二が呟く。

もう僕の前から姿を消さないで。

その声は小さ過ぎて本当にそう言ったのかどうかアッシュにはわからない。だが抱きしめられた腕から英二の気持ちが流れ込む。
しばらくそうしていた後、英二がゆっくり身を起こす。
「じゃ。僕。戻るね。」
「そうしてくれ。」
無理な体勢をとったことで傷口が痛むのか、小さくイタタと口にして英二は病室の外へと向かう。英二が引戸を引くと、廊下の非常灯の明かりが部屋の中に入り込んで2人の顔を薄ぼんやりと照らした。ドアの手前で英二はもう一度振り返り、薄明かりに照らされたアッシュを確かめた。
「お休み。アッシュ。いい夢を。」
「お休み。お前もな。」
英二がやさしく微笑んで、静かにドアが閉められた。
やっと見ることができた英二のその表情にアッシュは安堵する。
アッシュの顔が闇に紛れた。

病室に静寂が訪れる。
聞こえてくるのは、時計の針の回る音と、自分とシーツの間に起こる小さな衣擦れの音。
アッシュは自分の枕の下に手をやった。そこから封筒を取り出す。ユーシスが部下に持たせて自分に渡したあの手紙だ。その手紙の封は既に切られていた。ところどころ自分の血と涙に染まったそれをアッシュは開けずにただじっと眺める。
一度だけしか目を通していないその手紙の最後の言葉を思い浮かべた。

ー僕の魂はいつも君とともにある。

君とともに・・・。

アッシュの胸に熱いものがこみ上げる。それは何度思い起こしても変わらずアッシュの胸を熱くした。

『君達の関係は友達というには深すぎる』

アッシュは伊部の言葉を思い出す。

あの時、このおっさんは何が言いたいんだ。とアッシュは思った。
いや違う。自分にはわかっていた。
英二の発する一語一句で自分の心の闇は晴れ、英二から流れる感情で自分の心は温かくなる。
自分にとっての英二の存在はあきらかに他者とは違う。
伊部はそれに気付いているのだろう。そしてそれを危険に思って自分に釘を刺した。

『君は大丈夫か』

君は英二に友人以上の感情をもたないのか。
もしくは英二が君に持った時、君は流されないのか。と伊部は言いたいのだ。

アッシュは伊部の言葉を正確に理解していた。
確かにその感情は友達に対するそれとは違う。しかし決して恋人に持つようなものでもないはずだ。

大丈夫。
俺は大丈夫だ。もしどちらかがそんな感情を持ったとしても、俺は英二を流す事はできないし、流される勇気もない。
勇気か・・・。
勇気と言えば自分より英二の方が持っているのではないか。
何も力の無いその手で自分を慰め、いつも死と隣り合わせの自分の傍にいようとする。それは勇気がいることではないのか。

何度か英二を手離そうとした。彼の安全を考えて。
自分は弱い。
一度知った温もりを振り切る勇気を持ってはいても、もう一度伸ばされたその手を振り払うことが出来ないほどに、弱い。

アッシュは手紙を持っている自分の手を見つめた。この手は先程まで英二の温かなやさしい手によって握られていた。
自分がその手をどれほど焦がれていたのか。誰も知らない。英二でさえも。
NYに来てから誰も幼い自分の手を握ってはくれなかった。代わりに自分で強く自分の手を握り締めた夜。

誰か誰かどうか誰かと、

あの時溢れた思いが今叶っている。

アッシュは英二に握られた温かさの残る手を軽く握り、もう片方の手で包み込む。
手紙を折らないよう慎重に。

もう振り払えない。

アッシュは目を瞑り、握った両手を眉間に寄せた。手紙が軽く額に当たる。

『君は大丈夫か?』

伊部の言葉が反芻される。

俺はー

アッシュは考えることをやめた。考えられなかった。

これ以上考えると、俺はー。

窓辺に目を向けるとカーテンの隙間から薄い弓なりの新月が小さく見えている。
その月は自身が明るい光を放っているが、部屋の中までその光を射してはこなかった。
アッシュはその月をただ眺めた。どのくらい眺めていただろうか。

その月から視線を外し暗い天井に目をやる。
握ったままの両手を手紙ごと胸の上に静かに置いた。
その姿はまるで何かに祈るようだ。

早く回復しなければ。

自分が大事にしているものを、失わない為に。何者にも奪われない為に。

強くなりたい。

自分のためだけにではなく、自分が大事にしているもののために。
何者からも守れるように。それは弱い自分自身からでさえからもー。

大きく息をつき再び目を閉じる。
先程別れ際の英二の表情が瞼の裏に蘇る。

『おやすみ。アッシュ。いい夢を』

誰もいない病室で彼の口角が微かに上がった。
月が動きカーテンの隙間から見えなくなる。
暗闇の中でアッシュの意識が沈んでいく。
胸の上に置いたその手はまだ温かいままだった。







最後まで読んでいただいてありがとうございました。
妄想全開のこんな話に最後までついて来てくださった方には本当に感謝です。「こんなのも書きます」第二弾です。(第一弾は『Prison 月の格子』)
ただこの話他の人が読んだらイタかったりしましたかね?・・・だったらすみません。ほんとごめんなさい・・。
ちなみにちょっとだけ『月の格子』の描写を伏線に使ってみました。あの時のアッシュの欲しかったものを今の彼は手に入れてるカンジです。でもそれゆえに切ない感情も手に入れます。
この話のサブタイトルは『アッシュ。自分の気持ちに気づいちゃった?!の巻』です。この先を書くとウチの2人はA×英になったりするのですが、皆さん読みたいですか・・? この先はR指定モドキになってアップするのに勇気がいるから読みたい人がいるなら上げようかなぁ。だなんて。ちなみにこの先を書くとしてサブタイトルをつけると『英二。恋の猛アタック。アッシュはそれに耐えられるのか?!の巻』です。冗談です(笑)
とにかく。私の妄想を最後まで読んでくださった方々。本当にありがとうございました!


このコメントは管理人のみ閲覧できます

2012.10.02 15:46 | # [ 編集 ]

>ちょこぱんだ様
コメントありがとうございます!
ユーシスがこの話で2人の病室を別々にしたのは、ちょっとした嫌がらせだという裏設定ですww
ユーシスはどこまでも英二が嫌いですからね~。
「英二の恋の猛アタック」へのリクエストありがとうございます!
でもあれは本当に冗談で・・。ノリで書いてしまいました(すみません)
結構ここに食いついて(失礼)くださる方が多くてビックリです。
「猛」ではないアタックを書いてみるのもいいかと思いました。
それでは、またお暇な時に当ブログを覗きにやってきてください。
コメントありがとうございました~。

2012.10.02 21:02 URL | 小葉 #jneLG44g [ 編集 ]

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