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Banana Recipes

漫画 BANANA FISH の2次創作ブログです。 BANANA FISH 好きの皆様と仲良くしていただければ嬉しいです♪一部BL・R18あります。ご注意を。

英二は86番ストリートから公園に入ったところで足を緩めた。
そのまま伊部に聞いていた道を歩いていく。

えーと。こっちでいいんだっけ?

アパートメントからここまで意外に時間がかかった。すでに2kmは走った気がする。
公園内は緑で溢れていた。舗装された道路に影を落とす梢からは小鳥の鳴き声が聞こえる。

そういえば、リスもいるって話だなぁ。

英二はゆっくり歩き、公園の自然を楽しんだ。10分程歩いた頃だろうか・・。

あれは・・・。

その時英二の目線の先に目的のものが見え始めた。

桜・・・・。

ここは日本かと錯覚するほどの見事な桜が数本並んでいた。
『まだ咲き始めだったけど、あれは絶対ソメイヨシノだったよ。』
伊部の言葉を信じてないわけではなかったが、ニューヨークに桜なんて。

本当だったんだ。

伊部の電話から1週間がたっており、桜は少し盛りを過ぎているようだ。ハラハラと散る花びらで少しだけ地面が色づいている。
英二はカバンの中からカメラを取りだした。シャッターを切る。桜の淡いピンクと、芝の緑とのコントラストが美しい。英二はゆっくりと桜に近寄った。
満開の桜もいいが英二は散り始めの桜が好きだ。
桜の散る様を下から見ながら英二はあの時の電話での会話を思い出した。

桜の写真とりたいなぁ。
といった自分に伊部は桜の写真は難しいと返してきた。
写真を撮るだけなら誰にでもできるが、後で見返すとなんだかきれいじゃない。桜自体はもちろんカメラで写し出されてるが、実際桜を前にした時の、美しさや光やなんともいえない惚けるような感動はただシャッターを切るだけでは現像した写真に現れないのだと。
『じゃぁ。伊部さんはどうやって撮るんですか?』
そう聞いた英二に電話の向こうで伊部がニヤリと笑った気がした。
『企業秘密だよ。いくら英ちゃんでも簡単には教えられないなぁ。』
英二はワザと拗ねたように言葉を返した。
『ひどいなぁ。伊部さんは自分のアシスタントがいつまでたっても使い物にならなくてもいいんですね?』
『・・・それはちょっとマイッチャウかなぁ。』
アシスタントとは名ばかりで、お互いに英二の撮影能力の向上はさして期待してない上での軽口だった。
伊部さんにちょっとでも楽してもらうために教えてください。と言った英二に伊部は軽く笑って、桜に寄って撮るとき、引いて撮るときのレンズの種類、f値、シャッタースピード、補正の方法など、現実的なテクニックを教えた。英二は必死でメモをとった。
『ーて感じかな。わかった?英ちゃん。露出って覚えてるよね?』
『・・・・・はい。えーと』
伊部は電話の向こうで頭を押さえた。
『・・・まぁいいけど。ここから言うのが企業秘密というかコツというかー桜を撮るというよりも』





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アッシュは息を切らしていた。
アメリカ国内で最大規模の都市公園は人を探すには広すぎた。この公園は単純な市民の憩いの場ではなく、寄る辺ない浮浪者や観光客をカモにしようと狙っている犯罪者も多い。アッシュは英二を探してたくさんの施設や池や広場を覗いただけでなく、危険な茂みや建物の影などにも気を配りながらここまで走ってきた。
なかなか見つからない英二にアッシュは焦燥を覚えていた。

セントラルパークじゃなかったのか?

ではどこに?アッシュは足を止めた。前に屈みながら何度も肩で息をする。腕で汗をぬぐいながら英二が書いたわけのわからないメモ用紙をもう一度みた。

ーJakr・・・・・

アッシュにわかるのは(なんのことやらわかならいが)そのアルファベットといくつかの数字だけで、他は日本語で書かれていた。

なにかの略?・・それとも・・・。あ!

ジャクリーヌ・ケネデイ・オナシス貯水池( Jacqueline.Kennedy.Onassis Reservoir)か!

セントラルパーク内で一番大きな池であるその池までは目と鼻の先だった。
アッシュはまた走り出した。
目当ての貯水地にはすぐに到着した。しかし1周1.58マイル(2.5km)もある大きな池の対岸に英二がいたとしてもとうてい気づけるものではない。
アッシュは左右を見てため息をついた。

ちくしょー。池の周りをジョギングしろってのか・・。

右から周るか左から周るか・・。
アッシュは進路を右にとり半時計周りに走った。
しばらく走った後、かなり前方に黒髪の少年の姿が見えてきた。

あれは・・。

アッシュは遠くに英二を見つけた。
英二は池のほとりに一人で佇んでいる。花が満開に咲いている木の下にいるようだった。

何やってんだ、あいつは!

自分がこんなに必死になっているのに。
英二は首からカメラを下げているものの、ファインダーを覗くでもなくじっと満開の花を見上げて惚けている(ようにアッシュにはみえる)。暢気な彼に、ただでさえイラついていた気分がさらにイラつく。凶悪な気分だ。
すると英二が動いた。カバンの中をのぞき、自分の胸ポケットを触り、ジーンズの後ろを確認している。どうやらなにかを探しているようだ。

アッシュは走るのを止め、英二に静かに近寄っていった。

続く

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