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Banana Recipes

漫画 BANANA FISH の2次創作ブログです。 BANANA FISH 好きの皆様と仲良くしていただければ嬉しいです♪一部BL・R18あります。ご注意を。

まいったなぁ。伊部さんから、桜の撮影方法を聞いて書いた紙を忘れてきた・・か、落したか・・。

「探し物はこれか?」
後ろから聞きなれた声がして、英二は驚いて振り返った。

ーアッシュ?

そこには彼の同居人が、英二の探し物であるメモ用紙を持って立っていた。
今まで走っていたのか軽く息が切れている。そんなアッシュを見ながら英二の頭にたくさんの疑問が過ぎる。

どうして・・・
どうしてアッシュがこんな早くに起きてるのか。
どうしてここがわかったのか。
どうしてその紙を持っているのか。
そして。

どうしてそんなに怖い目を・・・。

英二は最後の問いだけ答えがわかっていた。
アッシュの目は笑っていない。
「・・・・ありがと」
と言ってメモを取ろうと英二は手を出した。が、アッシュはメモを持った手を英二の手とは逆方向に動かした。英二に渡す気はないようだ。
英二が右へ手を出すと、アッシュは左へ。英二が左へ出すと、また右へと繰り返す。
「アッシュ・・・勘弁してよ・・・」
「勘弁してだと?」
それはこっちのセリフだと言わんばかりにアッシュの怒鳴り声が辺りに響く。
「お前は馬鹿か?!あれ程一人で出るなと言ったろう! だいたい何でここなんだ? ここはきれいなだけじゃねぇんだよ。浮浪者やら犯罪者やらイカれたやつらがお前みたいな能天気なヤツを狙って、小金を稼ごうと人殺しまで起きるんだぜ。ホールドアップされたら一体お前はどうするんだ?!」

・・でも、ジョギングしている人や朝から散歩している人もいるよ・・。

懸命にも英二は声には出さなかった。
そうではないのだ。アッシュが心配しているのは、それだけではないのだ。
英二は狙われている。正確にはアッシュを狙っている輩がアッシュをおびき出す餌とするために英二を狙っているのだ。
「・・・うん。心配かけてごめんね。」



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ーごめんね?

目の前の日本の友人はすぐに謝る。今のアッシュにはそれも気に入らなかった。
謝るくらいなら最初からこういうことをするな。とさらに怒鳴ろうとした。が、自分より背の低いの黒髪の友人は、黒いアーモンド形の目で自分を見上げ本当に申し訳なさそうな顔をしている。
英二は表情が豊かだ。笑いたい時は素直に笑い、腹が立った時はすぐに眉間に皺がよる。そんな彼が最近、ふとした時に浮かない顔になるのにアッシュは気づいていた。外に出たいのだ。アッシュは自分が英二を閉じ込めているという自覚がある。本来の彼はあんなアパートメントにいる筈がないのだ。日本に帰ればどこへでも自由に歩き回れるだろう。アッシュはそう考えて苦い気持ちになった。
「・・・ほら。これが欲しいんだろ?」
英二はアッシュに許してもらえたのかとパッ表情を明るくする。
「これ」
取ってみろよと素振りで示し、アッシュはメモを持っていた右手を高く上に掲げた。
アッシュより背の低い英二が手を伸ばしただけでは、アッシュの手には届かない。
アッシュが片頬だけでニヤリと笑う。
英二が身長が低いのを気にしてるのを知っているのだ。
英二はムッとした表情になってアッシュを睨んだ。
”このヤロ”
彼は日本語で何事かをつぶやき突然ジャンプした。
「うわ?!」
英二は高く跳び、アッシュの手の中から紙切れを奪い取ったが、体勢を崩してアッシュとぶつかった。
アッシュは自分に倒れ掛かってきた英二を支えようした。
失敗して英二を抱いたまま背中から地面に崩れる。
「ってぇー。」
「・・ご・・ごめん。大丈夫?」
「ごめんじゃねぇよ!謝るくらいなら最初からすんな!」
「うん。ごめんー。」

だから謝るなって・・。

アッシュはため息をついた。英二の腰を支えたまま諦めたように地面に後頭部をつける。
見上げると黒髪の友人がその黒い瞳に心配そうな表情を浮かべて自分を見下ろしていた。その彼の後ろから満開に咲いた花が風もないのに地面に落ちてくる。
「きれいだな。」
「桜? きれいだろ。これを撮りに来たんだ。」
英二はアッシュの上から身を起こして隣に座り桜を見上げた。

ーCherry Blossoms?

そういえば、以前他愛のない会話の中で、英二が日本の桜はとてもきれいだとかなんとか力説していた気がする。

これが桜か。

アッシュは今まで桜がどんな花かはっきりとわかっていなかった。

そんなにこの花が好きなのか。
俺に黙って見にくるほど。

「この桜はソメイヨシノって名前で、日本でもっともメジャーな品種なんだよ」

アメリカで見れるなんてウソみたいだ。

英二は桜を見上げながらやさしく微笑んでそうつぶやいた。
さっき英二を見つけたときも桜を見上げていた。

”日本でもっともメジャーな桜”を。

その桜を見上げながら英二は何を考えているのだろうか。その後ろに何を見ているのだろうか。さっきも今も・・。
桜は太陽に照らされ、その花弁自体が光を放っているようだった。淡いひかりを・・・。
アッシュはその光を遮るように、両目を左腕で覆った。
「朝起きたら英二がいなかった」
「うん」
「慌てて飛び出して探した」
「うん」
「心配したんだ・・」
「うん・・ごめんね・・。」

日本に帰りたいか?

聞けば英二は、君のそばにいるよと答えてくれるだろう。かつて彼がそう答えてくれたように。

だがアッシュは聞かなかった。代わりに身を起こす。
「写真撮ってこいよ」
「いいの?」
英二の顔が明るくなる。
「いいも何も。ここまで来たんだからしょーがないだろ」
「ありがとう!」
英二はすばやく立ち上がって、メモを見ながらカバンからレンズを取り出し付け替える。
アッシュは、一番近い桜の下に座り直した。
「そのメモなんなんだ?」
「伊部さんに教えてもらった、撮影方法さ。レンズの種類とかシャッタースピードとか。」
「それを部屋に忘れたのかよ。」
「でもここの場所も書いてあったからここがわかったんじゃないの?あれ?でも日本語だった気が・・最初だけ英語だったかな?綴りがわからなかったから途中からカタカナで書いたんだ。ハハハ。よくわかったね。」
「・・・あの暗号を解くのにはかなり苦労したぜ。ジャクリーヌの綴りを言ってやろうか? J A C Q U ・・・」
「ハイハイ!家に帰ってからゆっくり聞くよ!」
英二は桜を取るべく、ファインダーを覗きながら場所を変えて離れていく。
アッシュは叫んだ。
「英二!あんまり遠くに行くな!」
英二はカメラを持ちながらこっちをみて何かをつぶやき肩をすくめた。
”子供じゃないんだから”
英二の声が聞こえた気がする。

まったく。子供より質が悪い・・。

アッシュは、シャッターを切りながらウロウロしている英二を視界に入れたまま桜を見た。

ほんとキレイだな。

木々に茂った桜の花びらが、光に透けて、その間から陽光がこぼれる。
見ていると吸い込まれそうだ・・。
アッシュは桜に背を預けた。どっと疲労が押し寄せる。
小鳥が枝から枝へ羽ばたく音がした。微かな風が首筋を通り抜ける。桜にもたれかかったままアッシュは辺りを見渡した。春先のやわらかい光が新緑を照らしている。貯水池の水面も光を受けてきらきらと輝いていた。

ここは光に溢れている。

公園内に入ってから今までそんなことに気づく余裕がなかった。
英二を見つけてからアッシュの世界は明るいものになった。
さっき英二を見つけてから。

ーあの日英二と出会ってから・・。

視線の先では、春の光の中で英二がシャッターを切っている。

ーほんとうにキレイだ・・。

知らぬ間に瞼が下がっていった。

続く

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