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Banana Recipes

漫画 BANANA FISH の2次創作ブログです。 BANANA FISH 好きの皆様と仲良くしていただければ嬉しいです♪一部BL・R18あります。ご注意を。

何かが静かに閉じられる音がしてアッシュは薄く目を開けた。

この59丁目のアパートメントに引越してからアッシュが自分で目覚めることはめずらしい。いや初めてかもしれない。いつもは口うるさい同居人が年長者の義務だ言わんばかりに、耳元で大声を出したり、遠慮なく頭を叩いたり・・・。アッシュはひどい扱いを受けてやっと目覚めるのだ。

たかだか二年早く生まれただけで年上風をふかしやがって・・ー

一週間程前、寝ぼけた頭にヒットした平手がひどく痛かったので、枕を抱きしめたまま小さい声で抗議してみた。
『児童虐待だ・・』
英二がここぞとばかりにこう言った。
『”虐待”と”躾”の区別って難しいよね。愛情のあるかなしかだと思うんだけど。水族館のアシカだって、怒られたりほめられたりして芸を覚えていくんだよ。さあ。朝になったら顔を洗うって芸をいい加減覚えたらどうだい?』

英二、それは”調教”だ・・・。

英語が得意ではない外国人の彼が『調教』なんて単語を知っているとは思えず、アッシュは黙って枕に顔をうずめた。
日光を遮っていたカーテンが開けられて、再びまどろみの中に落ちていこうとしたアッシュの頬に、もはや朝日とはいえない光があてられた。
『ほら、もうお昼になるよ。外はすごくいい天気だよ。』
片目だけを1mm程度開けると、英二がこちらを振り向くところだった。逆光で表情は見えないが、窓越しの光が英二の輪郭を輝かせている。アッシュは英二が光の中に溶けていくような錯覚を覚えた。眩しい。
『こんな日に寝坊なんてもったいないよ・・アッシュ・・』
・・・アッシュ・・・。
アッシュは光のなかに消えそうな英二を捕まえるために片手をのばした。

「・・・英・・?」

寝ぼけていたのかー。

伸ばした手の先に英二はいなかった。だらりと腕をベットの脇にたらす。横向きに寝ていたアッシュの焦点がぼんやりと床に合う。閉じられたままのカーテンの隙間からカーペットに日の光が差していた。その淡さから夜が明けて間もない事がわかる。
アッシュは視線を上げ、隣のベッドを見た。
英二がいない。
ベッドへと吸い寄せられる体を機械的にむくりと起こし、もう一度隣のベッドを見た。
英二はいない。
再び遠くで何かが閉まる音-ドアが閉まる音がした。
時計をみると5時42分。アッシュは不機嫌なオーラを身にまとい、寝癖で爆発した髪もそのままにのそりとベッドを出た。リビングを確認し、キッチンをのぞき、バスルームをノックしする。返事はない。薄くドアを開けてみた。いない。

どこにもいない?

まさか。玄関に行って、コートハンガーを見ると、英二の上着がなかった。

外へ出たのか?

時計を見ると5時47分。こんな早くに1階のスーパーが開いているわけもない。寝起きの不機嫌さが次第に怒りへと変わっていく。

どこへ?なんのために?・・一人で。

さっきまで寝ぼけていたとは思えない足取りで、アッシュは窓際に向かった。ブラインドを乱暴に指で下げる。

「・・・あいつ」

見下ろすと、黒髪の少年が通りを小走りで走っていく所が見えた。英二だ。
あれほど一人で外へ出るなと言ったのに。早朝と言えど、ニューヨークは危ない。宵っ張りの酔っ払いに絡まれるくらいならいいが、観光客を狙う早起きの犯罪者がいないとも言い切れない。そういえば最近変な気配が自分の周りにあるのも気にかかる。誰かにこちらを伺われているような・・。それでいて手出しをしてくる様子もない。
なんのために英二は外に出たのか。誰かから呼び出された?
誰が英二に接触したとすれば、それは・・?
英二を追いかけようとクローゼットへと踵を返したその足でアッシュは何かを踏んだ。

「ー?」

カサリと鳴ったそれを取り上げると、それは紙切れだった。その紙には英二の字で何かが書かれていた。



続く

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