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Banana Recipes

漫画 BANANA FISH の2次創作ブログです。 BANANA FISH 好きの皆様と仲良くしていただければ嬉しいです♪一部BL・R18あります。ご注意を。




6  たまには甘えたいんだよ
(アッシュ生きてた設定 A英)


英二はゆっくりとドアを開けた。

「ただいま。アッシュ。今戻ったよ」
「ああ」

英二の視線の先ではアッシュが背を向けてパソコンのキーボードを叩いていた。淀みなく打たれるその音。
静かに英二はアッシュに近寄った。
そして後ろからアッシュをゆっくりと抱きしめて、その肩に顔を埋める。
キーボードの音が止った。
少し間を置いてからアッシュが英二に「どうした」と短く尋ねた。
英二はアッシュに腕を回したままどう答えようかと逡巡する。

何も。何もないんだ。でも、

「……たまには甘えたいんだよ。いつもきみに甘えられてばかりだからね」
「オレが、いつ、お前に甘えた」
「まさかきみ、気づいてないのかい」
と英二はアッシュの首に顔を埋めたままクスクスと笑ってみせた。

先程、英二は妹に会ってきたのだ。ここNYで。
アッシュはそのことを知らない。
妹は数日だけNYを観光して、先ほど日本へと帰って行った。





アッシュがラオに刺された後、英二はNYに一人で残った。たいした理由も語らず日本に帰らない長男に、病気がちの父はお前の好きにしろと言った。母は電話口で泣いてばかりだった。妹は電話には出たものの、一言も発さなかった。
あれから数年がたった今も母は自分の事を気に掛けている。成人して就職した妹にNYに遊びに行ってはどうかともちかけたらしい。今、日本はバブル景気だ。このNYにも日本人の団体観光客がこぞってやってくる。OL同士で遊びに来ているのか、道に迷った日本人女性に声を掛けられることもたまにあった。妹もそのうちの一人なのだろう。

彼女からは今朝職場に電話があった。数日前にNYに来ていて、今から日本に帰るらしい。
英二は慌てて職場を飛び出して空港へと向かった。
空港の喫茶店で出会った妹は、ニコリともせずに紙袋を英二にむけて突き出した。

『お母さんがお兄ちゃんにって』
『ありがとう』
『仕事は順調なの?』
『まあまあだよ』
『私があげたお守り覚えてる?』
『まだ持ってるよ』
英二は懐から古ぼけて痛んだお守りを取り出した。アメリカに来てすぐのあの2年の間もその後も、失くさずに持っていたものだ。
『それ返して』
妹が広げて出した手の平に英二はそれをゆっくりを置いた。
彼女はそれを握り締め、鞄の中に入れる。
『神社に返しておく。かわりにこれ』
妹が鞄から出したのは新しいお守りだった。

英二が広げた手の平に、今度は真新しいお守りが置かれた。

英二はそれをそっと握る。

『お前がもらってきてくれたのか』
『そうだけど?』
『大切にするよ』
『……もう時間だから』
『荷物持とうか』
『うん……』
二人分の会計を済ませた英二は片手で妹の荷物を持って、もう片方の腕を彼女の肩に回した。妹の体重が少しだけ英二にかかる。
子供の頃、学校から帰った自分に妹が飛びついて来たことを英二は思い出した。

”両親を頼む”

英二の喉まで上がった言葉は、だが声にされることはなかった。自分はこの遠いアメリカにいるのに、妹にそんなことを頼めるのか、幼い頃から見ていたこの細い肩に。

だが自分はここに残ると決めたのだ。

アッシュの側に。

歩きながら妹が英二に話しかけた。

『お兄ちゃんの』
『うん?』
『写真集みたよ』
『そうか。どうだった?』
『写真がいっぱい載ってた』
妹の言いように、英二は小さく吹き出した。
『写真集だからな』
『写真のことはわかんないけど』
そして妹が立ち止まり、鞄から一冊の本を出した。英二の写真集だ。彼女はマジックと一緒に英二にそれを差し出す。
『ここにサインをしてくれると、有名になったら、プレミアつけて売って儲けてあげる』
『……じゃぁがんばるよ』
英二はそれにサインをして妹に渡した。それを見て妹が言った。
『わぁ……ほんとにサインなんだ。カッコつけちゃって』
再会して初めて妹が笑った。笑ったところが兄妹でそっくりだ、とよく言われたなと英二は思い出す。
『大事にするね』
彼女は写真集を両手に抱えて、兄を見上げて微笑む。

そんな妹を見下ろしながら、英二は色々な言葉を飲み込んだ。
ありきたりの言葉を口にする。

『じゃぁ元気で』

妹はゲートをくぐり、何度か英二を振り返り、そのたびに微笑んで、手を振り、そして見えなくなった。





抱きついたままの英二にアッシュはそれ以上声を掛けなかった。

しばらくの後、英二はゆっくりとその腕を離して、「さ。晩御飯でもつくろうかな」と、部屋を出ようとする。
「待てよ。外に食いに行こうぜ。」
アッシュは英二の隣に立ち片腕で英二の肩を引き寄せた。
「でも食材買ってきたよ?」
「明日作れよ。たまにはいいじゃねぇか」
「……そうだね。」
そのまま二人は玄関に歩いて行った。
「何食いたい?ラーメンライス以外で」
「何でもいいよ?ホットドッグ以外ならね」

二人の間で何年も使い古されたジョークを言い合い、笑い合う。

そうして、アッシュはコートハンガーにかけられた上着を手に取り、同じく英二は先程脱いだばかりのジャケットを羽織り、玄関の鍵を閉めて、階段をアパートの階段を二人で下りていった。


英二もいろんな葛藤があると思う。という話




7 そこまで考えてなかった
10 嫌いになる程好きにもなってない
17 全然元気じゃん
27 好きだけど嫌い
44 好きとしかいいようがない
61 泣きそう
62 ココロはもうボロボロになってる

(S暁 シンが暁を口説いているところ)


「あら?嫌われちゃった?」
「……嫌いになる程好きにもなってないし」
「あー。今のスッゲー傷ついた。スッゲー胸が痛い」
イタタタタ。とシンが胸を押さえる。
「泣きそう、俺のココロはもうボロボロになってる」
そう言ってさらに大げさに目頭を押さえたシンに、暁はなんだか罪悪感を覚える。
「だって!日本の中での遠距離恋愛だって上手く行かないことが多いらしいのに。アメリカとだなんて。会うどころか声もなかなか聞けないじゃん。会ってる時は楽しくていいかもしれないけど、会えない時間が多くなってきたらきっと、ちょっとずつ気持もおさまってきたりするんだよ?きっと、今目の前にいる自分を楽しくさせてくれる他の誰かとどんどん親しくなっちゃったりするんだよ?」
「暁は賢いな。」
十も歳の離れた目の前の自称“恋人志望“の男が、目を細めて優しく笑いながら暁に言った。
「俺なんかそこまで考えてなかった」
今度は顎に手を当てて考えるふりをしたシンは暁に向かってこう言った。
「いいんじゃねぇの?もっと軽く考えて。声が聞きたくなったら電話するし、会いたいと思ったら飛行機に飛び乗るさ」
「……絶対?」
「絶対に」
「シンは私の事どう思ってるの?」
「お前、何回言わせるんだ。好きだよ。好きだ。好きとしかいいようがないね」
肩をすくめ軽く答えた後、シンは暁の瞳をまっすぐに捕らえた。
「愛してる。俺と付き合ってくれ」
そして、お前はどうなんだ、と暁に聞き返す。
「……スキ」
「なんだ?聞こえねーなぁー」
「好きだけど嫌い!」
「なんだそりゃ」
「もー。デリカシーってもんがないのよ!これだからオジサンは!」
「あ。お前。それはいっちゃいけない言葉だ。また傷ついた。あー傷つくなー。」
俺は意外にガラスのハートを持ってんだぜ。だから、やさしくしてくれよ。と暁を引き寄せ彼女の瞳を除き込む。

「キスしていいか?」

傷ついたなんて言っても全然元気じゃん。この状態でそんなこと聞くってのがデリカシーないのよ。

そう呟きながら暁は静かに目を閉じた。


この100題ではS暁がそこそこでてきます。ノリノリで書きました。暁かわいいv





8 強がりだな
9 無理すんなって

(原作後 S、英、暁。 多分、月龍の屋敷だと思う。)



英二、とシンが静かに彼を呼んだ。

「強がりだな」
「そんなんじゃない」
「無理すんなって。お前にはそんなものは似合わねーよ」
ほら。とシンは英二の手にその手を伸ばす。
英二の震える両手には拳銃が握られていた。その銃口の先にいるのは、アメリカ華僑の若き指導者。
シンが仕えるその男は、女性と見がまうほど美しい。その愁眉を1mm足りとも動かさず、だが英二を挑発する。
「撃ちたいなら撃てば?」
月龍、とシンが短く諌める。余計なことは言うな、と。
「英二」
シンがもう一度英二に声を掛けた。言い含めるようなその口調。

「お前には撃てねぇよ」

ゆっくりと近寄っていたはずのシンは、瞬間、英二の腕を掴み拳銃を床に向けさせ、手首を手刀で叩いて彼の手から拳銃を落とした。
英二の目が床に落ちた拳銃を無機質に追う。
シンは彼を掴んでいた腕を力強く引き寄せ、もう片方の腕で英二の頭を自分の腕の中に抱き寄せる。
「あいつも、こんなことは望んでないはずだ」

シンがゆっくりと英二を抱きしめた。




数年前にアップした「No rain no rainbow」という小説の後半のS英シーンはこの話がベースになっております。100題のほうが先にできてた。




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