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Banana Recipes

漫画 BANANA FISH の2次創作ブログです。 BANANA FISH 好きの皆様と仲良くしていただければ嬉しいです♪一部BL・R18あります。ご注意を。

注:英二の独白は青(小葉が書きました。)
アッシュの独白は緑(カボチャ様が書きました。)で表示しております。ご了承ください。



「ねぇ。今日は僕もリンクスの皆と飲みたいんだけど。」

出かけようと上着を手に取った君に、僕は言ってみた。
どうしてだ。という君に僕はなんでもないんだけど、と肩をすくめて答える。

「しばらく皆と会ってないしね。」
でも、ホントは僕の中では今日は特別な日だ。君は気付いてないと思うけど。

君はリンクスの溜まり場に僕が顔を出すのを嫌がる。危険だからだろう。
アッシュはカリスマだ。リンクスの中では神に近い。そんな神様の近くにポッと出の僕なんかが彼の脇にいるのをよく思ってないメンバーがいるはずだ。と僕は思っている。
だから、僕もリンクスのたまり場には極力顔を出さないようにしている。でも今日はー。

「それにこのアパートの中ばかりだと息が詰まっちゃってね。」
僕は少し目を伏せて少し精神的にまいっているフリをした。自分でもよくやるよ。と思う。
でも、今日はなんとしてもあのバーに行きたいんだ。君と2人で。
そんな僕を見て君は逡巡したようだ。
小さくため息を付いて、いいか。俺から離れるなよ。と言って僕の肩を抱いた。
やった!作戦成功だ! 「うん。君の傍を絶対離れないよ。」 と僕は顔を上げて君を見てからニコリと笑う。
連れて行ってくれるならなんでもアッシュの言う事を聞くよ。と。

アッシュも僕に笑い返してくれた。

僕は今日というこの日に君に見せたいものがあるんだー。


ー記念日ー


そして、僕は今リンクス達の溜まり場のテーブル席で酒を飲んでいた。

なのに僕の隣には君がいない。
僕は早いペースで酒を煽る。
心配したボーンズが、もうやめとけよと静止するのも聞かずに。
アッシュはカウンターにいて僕に背を向けていた。その隣にはけばけばしい化粧の女が座っている。
さっきまで僕はそこに座っていた。

1時間くらい前、この溜まり場に到着して、僕たちはカウンター席に向かった。そこはアッシュの指定席だ。ボスである彼がこのバーにいない時もそこに座るリンクスはいない。迷わずいつもの椅子に座るアッシュについて、僕は彼の隣に座った。
アッシュはいつものお酒を注文し、僕はとりあえずビールを頼む。
強面のマスターがニコリともせずに、すぐにお酒を出してくれた。
グラスに口をつけるアッシュは心なしか機嫌はいいようだ。
きっと僕が今から君に見せるものも喜んでくれるだろう。 たわいない会話で笑い合いながら僕たちは杯を重ねる。
二杯目のお酒も残りわずかになって、僕はそろそろ本題に入ろうとポケットに手をやった。

「あのさ。君は覚えてないかもしれないけどー。」

その時、とても美人な女の人が、久しぶりね、とアッシュに声を掛けて僕とは反対側のスツールに座った。 いつもはアレックスが座る席。

アッシュが少し動揺する。僕はそれを見逃さなかった。

会話からして昔なじみのようだ。
アッシュは僕に気兼ねをしてか、取り敢えず彼女に断りの言葉を掛けていた。
だが彼女は構わず、アッシュの肩に親しげに手を載せ、アッシュに話しかける。

彼女はとても・・ゴージャスだ。

腰まで届く波打つ金髪は少し赤みがかっていて美しい。アッシュの明るいプラチナブロンドの髪の隣でよく映えている。
白い肌。濃い青色の瞳。ハッキリした目鼻立ちは彼女の性格を表しているのだろうか。
不機嫌なアッシュをものともせずに明るく話しかけている。
アッシュはうるさげに返事をしていた。
彼の肩に手を載せたまま彼女が彼の耳に口を寄せた時、 彼女が、まるで初めて僕に気づいたかのようにアッシュの肩越しにこちらを見た。

まるで珍しいものでも見るような視線。

僕は不快な気分になった。




鼻が曲がりそうな臭いを撒き散らしながら、

「アッシュ?・・・やっぱりアッシュじゃない!!やだぁ、久しぶりね!!」

真っ赤な爪を俺の肩に乗せ、そこに座るのが当然といった――――嫌な顔付きで、左隣の椅子へ腰掛けた。


「・・・・」レヴィ!!お前なんでこんな所にいるんだよっ!!


馴れ馴れしいソイツの態度に、俺の右隣に座っている彼の肩にピクリと動揺が走り抜ける。

機嫌を損ね、納豆尽くしのメシを食わされでもしたら堪ったものではないと――――瞬 時に判断を下し、

「・・・レ・・レヴィ、悪いな。今コイツと飲んでるから、またにしてくれ」

消え失せろ!! 

そうそう邪険にも出来ない面倒な相手を、波風立たぬように追い返そうとする。が、
血でも啜ったような毒々しい真っ赤な口を耳元にすり寄せてきて、
 
「随分なご挨拶じゃない?一杯くらい奢ってくれてもいいでしょ?
あら?その子、可愛 いじゃない・・・」
 
酒焼けした低音のササクレ声でねぶられて、ついでに彼にも目を付けられてしまい渋々覚悟を決めた。


――――折角のデートをブチ壊しやがって!!
 

背後のテーブル席にいるボーンズに視線を送って、彼から絶対に目を離すなと無言で伝達してから、
 
「――――英二、悪いな・・・席を外してくれ」

怖くて見られない右隣のひとへ、聞こえるようにぼそっと呟く。と、
すかさず椅子から飛び下りて――――俺と彼の間に、体を割り込ませてきたレヴィが、
  
「あら!アタシは彼も一緒がいいわ!!・・・アッシュ、貴方ちょっと邪魔よっ!」

洋服からわざとはみ出させている、シリコンの胸の肉を彼に見せ付けるように微笑みかけて――――後ろの尻の肉>で、俺を椅子から弾き飛ばそうとする。 

矯正下着に包まれた、固いその肉に負けじと――――必死で椅子にへばり付きながら 

「――――英二!!お前は向こうに行ってろっ!!」
  
大切な彼に指1本触れられないうちに、安全な場所へと遠ざけた。




そして僕は今ボーンズとコングと3人でテーブルを囲んでいる。
ボーンズには一応アッシュと彼女の関係を聞いてみた。それとなく。
でもなんだか僕には言いづらいみたいで。
ああ・・とか、まあ・・とか、ごまかして、ボスが言ってないならお前は知らなくていいんじゃねぇか。と教えてくれない。

アッシュなんて知らないんだ。

僕は何杯目かの酒を煽る。 僕の視線の先ではカウンターでアッシュが彼女と話をしていた。
絶えずアッシュの方を向いて話をしている彼女はとても楽しそうだ。
僕は杯を重ねながら2人を見る。
笑う彼女。 スネる彼女。 アッシュにしな垂れかかる彼女。
どの彼女もとても楽しそうで。
あんな美人に寄りかかられて悪く思う男はいないハズだ。
僕の胸はなんだか苦しくなる。

僕たちはこの間恋人同士になったばかりだ。
勇気をもって、君が好きなんだと言った僕に、君は少し戸惑って、僕から視線を少し逸らしながら、俺もお前が好きだと、答えてくれた。

そして僕たちは2度目のキスをした。

恋人同士になってから初めてののキスだね。と僕が言うと君がそうだなと少し笑った。
そして2人でキミのベッドで抱き合いながら眠った。
一つのベッドで寝るのも初めてだね。 と僕が言うと。
初めてばかりでよかったな。早く寝ろよ。と君は僕の額にやさしくキスをして僕が眠るまで髪を梳いてくれた。

だから。 だから僕たちは恋人同士なのに。
どうして今、彼の隣に座っているのは僕じゃぁないんだろう。
僕は酔いの回った頭で考える。

やっぱり僕たちは男同士だから?
やっぱりアッシュは女の子の方がいい?

その時、アッシュの隣のゴージャスな彼女が僕を振り返って、真っ赤な唇が意味ありげに笑った。
僕は彼女の視線を振り切るように、グラスの酒を一気に飲み干す。

ー負けられない。
僕は今日中に君と2人で話したいことが、あるんだ。




「・・・アッシュ!いい加減教えてくれてもいいでしょ?
 あの子、付き合ってる人とか居るの?」

「お前に関係ないだろ」居るに決まってんだろ!!俺だよ!俺!!
 
トイレの芳香剤のような臭いに顔を顰めつつ、随分と早いペースで杯を重ねていく彼を横目で盗み見る。と、

ほんのり頬を染めている彼の黒い瞳が――――トロンと力を失い、涙を抱いているかのように艶やかな光を放ち、
 
「ボーンズ!おかわりぃ!!次はもうちょっと強いのが飲みたいなぁ・・」

舌先でペロリと唇の縁を辿った瞬間、周りの野郎共が――――ゴクッと喉仏を動かした。
  
――――あいつらっ!!

 
舌打ちを堪え、邪魔者ばかりのここから、どうやって彼を家まで無事に帰らせるか頭を働かせていると、

「教えてくれたっていいじゃない~!ケチ!!
 減るもんじゃあるまいし・・・ねぇ?教えてよ!」

血肉を引き裂いて染めたような爪を――――俺の二の腕に食い込ませ、彼の情報を何とかして吐かせようと、レヴ>ィが酒臭い唇を近付けてきた刹那、

――――英二?

テーブル席で飲んでいた彼がすくっと腰を上げ、覚束ない足取りで――――真っ直ぐこちらに向って足を運び始め>た。


気迫の篭った可愛らしい彼が、一歩一歩俺に近付いて来るのを、全神経を研ぎ澄ませて感じながら、 

「レヴィ・・・臭いツラを近付けんなっ!」
「なによ失礼ね!!」 

耳の直ぐ横にある、トイレの芳香剤を手を押し払い、もつれかかった不安定な足音に耳を傾ける。と、

空いている右隣に到着した彼から、ふわりと小さな風が巻き上がり――――甘い、ミルクの香りが漂ってきて、

「ね。君。今日は何時に帰ってくるんだい?」



僕は君を見上げた。
僕は知ってるんだ。この角度から君を見上げる僕の瞳にきみが弱いって事を。

それまで少し仏頂面だったアッシュの顔が僕を見て少しやわらいだ。
やっぱりこの角度は効果があるようだ。と酒でぼやけた頭で冷静に分析する。



舌足らずの物言いと共に、上目遣いに見詰められて――――前髪の隙間から覗く瞳に、誘われているような錯覚に陥った心臓がどくんと跳ね上がる。


叶う事なら、このまま彼と一緒に帰って、同じベットで横になって、モチモチの頬に頬擦りして、

おやすみのキスをして――――そして、許されるならその先へ進みたいと喚く欲望を宥めすかし



「・・・リンクスの会合があるんだ」あいつらをキッチリ〆とかないと駄目だろ?

生唾を呑み込んだ奴等への制裁をしなければならない――――彼氏のボスの役目を伝える。




君が呟いた。だからお前は帰っとけ。と。

リンクスの会合?だから何?その彼女と飲むのはいいってことかい?
僕はいつもの僕なら思いもしないような事でイラっとする。

彼の脇からは女が茶々を入れてきた。うるさいな。
だが酔っ払った僕の耳には彼女の言葉はちゃんと入ってこなかった。




俺たちの会話に聞き耳を立てていたレヴィが、ギラッと目を輝かせ、

「あら!!じゃあエイジ!!アタシと一緒に帰らない?」

獲物に喰らい付くような嫌な光を灯し、俺の彼に気安く声をかける。
 
「――――レヴィ!!お前は俺と飲むんだよっっ!!」話しかけんな!汚れるだろっ!
「え~!?なんであんたと飲まなきゃならないのよ!」
 
二の腕を掴んでいるマニキュアの指へ、ふっと寂しげな瞳を落とした彼に、 
 

違うんだ英二!レヴィはな、家までノコノコ着いてくるような厚かましい奴なんだよ!

おまけにな!!性転換の最中だから、男だろうが女だろうが両方こなせる兵なんだよ!

 
喉元まで出かかった言葉を飲み込んで、 

「・・・・だからお前は帰っとけ」コイツは俺が食い止めるから!!なっ!?
 
この場にいる誰よりも信頼のおける人物の――――その気の全くないボーンズを、人差し指を折り曲げて呼び寄せようとすると



アッシュは僕を一人で帰らせる為に、もう一度ボーンズを呼び寄せようとする。
そんなに僕を帰らせたいのか。なんで?アッシュ。”俺の傍を離れるな”ってさっき君は言ったよね。

僕の胸はキリリと締め付けらる。

僕はくやしくなってうつむいて少し歯を食いしばった。

君。ー見てろよ。




「・・・・・そっか・・」  

掠れた声を紡いだ彼が微かに震えた指先で、俺のTシャツをつんと引っ張り――――

数年に一度の、甘えてくる彼の姿に、さっきよりも一段と跳ね上がった心臓がドクドクと耳煩い音を奏で出す。 

 
――――英二っ!?




アッシュのTシャツの裾をひっぱりながら僕は上目遣いになる。
アッシュの気配が少しドキリとしたのを感じられる。 こういうのが嫌いな男がいるなんて聞いたことがない。僕も男だから良くわかる。
僕は酔った頭でろくでもないことを考える。男が男の裾をひっぱるなんてシラフの僕には出来ないだろう。でも。

しめしめだ。



早摘みのアメリカンチェリー色の唇が、ぱくぱく卑猥に動いて、 

「忙しいんだね。僕は君といたいのに・・・・
 僕はいつも心配だよ。君の・・帰りが遅くなったときはいつもいつも。」
 
捨てられた子犬のように、小さく震えた瞳が真正面から俺を捉えて――――傷付いた笑みを見せる。




それから僕は、少し寂しげな表情を顔に浮かべた。もちろんわざとだ。
「でも、眠らずに待ってるから。早く帰ってきてね。」
僕がこの表情を浮かべた時、僕にやさしいアッシュはかならず僕の心配をしてくれる。




消え入りそうな彼の笑顔に、心が壊れてしまったように尖った痛みを訴えだし、

「用が済んだら直ぐ帰るから、な?」だから、そんな顔するなよ。

つい、いつもの癖で――――黒髪の指通りに癒されたくなった手を伸ばしてみる。が、

「・・・・っ・・」
触られたくないとでも言っているように、彼が素早く身をかわして逃れ――――初めて俺を拒否した。

  


アッシュの手が思わず僕の黒髪をなでようとしたのをさりげなく僕はかわした。
君の手が宙を掴んで少し止まり、そして降ろされる。その顔はとても切なそうだ。

ごめんよ君にそんな顔させて。

ーでも後一押しか。

いつもの僕なら絶対にやらないこんな駆け引きに僕は負けたくないんだ。
アッシュの隣の彼女に負けたくない一心で君の気を引こうとする。
僕は何かに思いついたようなフリをして、顔を上げた。
君って確か『彼』が大嫌いだったよね。
「そうだ。でも今日は確かシンが前から見たいっていってたビデオが手に入ったっていってたから、彼に電話するよ。僕もすごくみたかったんだ。2人で見てる分には君も安心だよね。彼も腕は立つし。だから、一人でも大丈夫だよ。心配しないで。」

僕はもはや最初の計画の意味を見失っていた。
僕は君とこのバーで2人きりで話をしたかっただけなのに。
アパートにもどってしまったら意味がないのに。
シンとビデオを見る約束なんてしてない。全部ウソだ。
そして、君が一番弱いとっておきの僕の笑顔を顔に浮かべて見せる。

「ね?」

よし。これでどうだ。




――――英二・・・なんでだよ・・・

 
宙を彷徨っていた指をきつく握り込んで、張り裂けてしまったような胸の痛みに耐えていると、 

悲しげに下がった口角を不自然に吊り上げた彼が、

「そうだ。でも今日は確かシンが前から見たいっていってたビデオが手に入ったってい ってたから、彼に電話するよ。僕もすごくみたかったんだ。
2人で見てる分には君も安心だよね。彼も腕は立つし。」

愛しい恋人の名でも口ずさむかのように、『シン』と唇を動かす時に――――綻んだ笑みを見せる。
 

――――っつ!! 
 

その途端、早鐘を打ち始めた心臓が壊れそうなほど激しく脈動をし出して、

まるで、鷲の鋭い鉤爪で胸を掴みにでもされているような――――初めて感じるキリキリした痛みに、

心臓がどうにかなってしまったのかと、眉を顰めてじっと耐えていると、

 
「だから、一人でも大丈夫だよ。心配しないで。――――ね?」 

 
言葉ひとつで、指先ひとつで、笑顔ひとつで、俺がこんな風になってしまう事を知らない彼が、

逢いたくて逢いたくて仕方がないんだと、瞳を細め――――シンに重ね合わせて、俺に笑いかける。


――――なんだよっ!!俺の事が好きだって・・お前、そう言っただろっ!!
  
 
さっき抱き寄せたばかりの彼の肩に、俺のではない腕が回されている幻影がチラついて、
「・・っ・・英二!ちょっと来いよっ!!」
木っ端微塵に砕けた心を隠し、それでもまだ愛しくて放したくない手首を、強引に掴んで引っ張って行く。 



それまで 黙って聞いていた君は、怖い顔になり・・・。お前ちょっとこっちへ来い。と僕の手を強くひっぱって僕を店の奥へと連れて行く。

しまった・・やりすぎたか。

君に捕まれた腕の痛みが一気に僕の酔いを醒ました。




「アッシュ?・・痛いよ!急にどうしたんだい?」

 
邪魔な奴等を一瞥して退かせ、トイレのドアを蹴り開けて――――自分自身が何をしたいのかも分からないまま、>薄汚れた個室に入って後ろ手に扉を閉める。

「――――アッシュ?」
 
木の軋む歪な音が、タイル張りの個室に悲鳴のように共鳴して、その音に瞳を顰めた彼が俺を見上げる。


――――嘘だったのかよっ!!俺がいいって・・・あの言葉は嘘だったのかよっ!! 


誰にも触られないように、ガラスケースにでも閉じ込めて、俺だけの物にしたい瞳を見下ろして、


何を聞いたらいいのか。まだ間に合うのか。

何故俺じゃ駄目なのか。いつからチビが入り込んだのか。

 
様々な思考が頭の中を駆け巡り、上手い言葉が見つからず、

「・・・なんで・・なんでだよっ!!」
意味の通じない問いを繰り返しながら彼を見詰めていると、

黒い瞳がグラリと揺れて、俺に見られるのが苦痛だと言わんばかりに――――顔をサッと伏せてしまう。

その瞬間――――抑えきれない激情に突き動かされた両腕が、 

「なんで避けんだよっ!!何が気に入らないんだよっ!!」
薄い両肩を掴んで、逃げてしまった彼の気持ちを捕らえるように、縋り付くように、

「・・・っ・・痛っ」 

壁に押し付け――――顎を掴んで無理矢理上を向かせた目を、正面から見据える。

 
俺以外の奴の名前なんて口にするなよ。 

頼むから、俺だけを見てよ。

  
拙い想いに支配されそうになる、情けない声帯を腹の底で押し止めて、

瞳を歪ませている彼に追い詰められた問いを投げ掛けた。

「・・・俺が・・俺が怖いのか?」 



俺はただ、お前とふたりきりになりたかっただけなんだ。それだけなんだよ。





その時きみの眼差しからフッっと力が抜けた。

ーえ?

そりゃ。君にあんな目で見られて怖くないやつなんかいないと思うけど。でも。

君の目が不安に揺れる。

先ほどまで君が身に纏っていた怒気がなりを潜め、かわりにひどく自信のなさそうな君が目の前にいた。
頼りなさそうな。僕を窺うようなその瞳。

僕は知ってるんだ。

君はとても強いんだけど、本当はとても不安定な所があるということを。
君は一人で何もかもできるんだけど、本当はとても寂しい心を持っているという事を。
だから僕は君のそばにいたいと思ったのにー。
だから僕は君の不安をできるだけ取り除きたいと思ったのにー。

なのに。

君にそんなことを言わせた僕に、僕は軽い自己嫌悪を覚える。
僕が君を怖いと思うことなんて・・。

だけど、君の瞳は真剣で。真剣に僕を窺っていて。でも同時にそれはとても自信なさ気で。
ここで僕が、そんなことないよ。と言っても信じてもらえそうにはない。
僕はどう言ったものかと逡巡した。

そうだ。今ここで・・・・。

僕はポケットをゴソゴソさぐりながら君に話しかける。
今日の僕はこのポケットの中のモノを君に見せたかったんだ。
このバーで。君と2人きりで。




両肩を掴まれたまま不便そうに、ポケットから一枚の紙を取り出して、

「ね。覚えているかい?数年前の今日、僕らはここで出会ったんだ。」

俺の目に映るように、目の前に差し出されたその写真に――――懐かしい空気に包まれた。
 
「・・・・これって・・・」スキップ・・・
彼が初めて店にやって来た時の思い出の一枚に、

久しぶりに見るスキップに、虚を衝かれて一瞬黙り込むと、
 
「最近。伊部さんが写真の整理をしたみたいで。
僕にあの時の写真を何枚か送ってくれたんだ。」

入手先を得意気に語り出す彼の瞳が――――痛い思い出に、少しだけ細くなる。 

初めて会ったばかりで硬い表情をしている、ほんの少し若い彼と、
小さなままの記憶通りのスキップを切り取った、

お世辞にも出来がいいとは言えないその写真に手を伸ばす。




ぼくは懐かしさで胸がいっぱいになる。

この黒い肌の少年とは少ししか話さなかったけど。その少しの会話からスキップが君の事がどれほど好きなのかが僕にに伝わってきたんだ。

「君は人を殺したことがあるって言っていたけど、こんなにスキップに好かれる君は決して悪い人ではないんだと思った。僕はだから君が最初から怖くなかったんだ。」
だから僕は初めから君に惹かれたんだ。
今こうして君と恋人同士になれたのも彼のおかげかもしれない。
僕は君の瞳を真正面から見た。

そして、ゆっくりと君に向けて言葉をかける。 僕の思いの全てが君に伝わるように、願いを込めてゆっくりと。

「僕は君を怖いと思ったことなんか一度もないよ。」



真っ直ぐの瞳を俺に向けて、一言一言が大切な宝物のように――――慎重に、丁寧に、言葉を紡ぎ出した。



欲しかったその答えに、彼の心がまだ俺にある事を知って、 

「記念日だから。・・・だから今日ここに来たかったのか?俺と一緒に?」
あんなに壊れそうだった心臓が命を吹き返したように、優しい調べを取り戻していく。
 
俺の心臓を操るなんて驚異的なことを難なくやってのける彼に、

「お前ってすごい奴だな」
泣きたくなるような幸福感が満ち溢れてきて、

柔らかなミルクの香りに鼻を埋めたくなって――――大切な人を腕の中に抱え込もうと小さく身を屈めると、


思い出の写真を傷を付けないよう、器用な指先で写真の角をそっと摘んで、

「・・・・アッシュ・・・」

壊れ物にでも触れるように、温かな掌で頬をそっと包み込んでくれる。


そんな積極的な彼に、毒気を抜かれている間に、
「・・・え・英二?」 
 
早摘みのチェリーが甘酸っぱいそよ風を起こしながら近付いて来て、額へ到着するや否や、すぐさま逃げ去って行>く。
  
逃げて行くチェリーを唇で追い縋って、タイルにの壁際まで追い込んで、ぷるんとした赤い実に齧り付こうと、顔を斜めに傾けて薄く口を開いたところで、
  
「ね?」
 
小首を傾げ、バツが悪そうに微笑む瞳とかち合って――――嘘の吐けないその瞳に、全てを悟った。 


――――コイツ、確信犯だ。

 
すまなそうに緩んでいる頬に、音を立ててキスのお返しをしてから、  

「お前、シンと約束なんてしてないだろ?・・・電話も嘘だな?」
 なだらかな首筋に鼻を埋めて、ハニーミルクをきつく抱き締める。
    
――――全くさ・・・ 

焦った彼が、ほんの少しだけ体温を上げ、

「え?ち・違うよっ!さ・さっき君の居ない時に電話で話してそれでビデオが――」 
 
それでも必死に取り繕っている、小憎たらしい首筋に――――軽い甘噛みをして、

「なんでそんな下手な嘘吐くんだよ!オニイチャン、最近『特に』性格悪いぞ?」
小さく怒っているフリをしながら、


――――全くさ、お前には敵わないよ。
 
 
心の中で全面降伏を掲げ、食べ損なったチェリーを口に含もうとする。が、

穴でも開けてるのか?と思わす聞いてしまいそうなほど、けたたましくドアがノックされ、

「ちょっとっ!!早く出てよっ!!漏れたらどうすんのよっ!!」





この声は・・。
アッシュがその声に動揺する。
これってあの彼女の声だ。独特な低い声。

そうだ君。あの彼女と一体どういう関係なんだ!僕の胸にまた黒いものが広がっていく。君は僕を放って置いてまで彼女と・・。

ん?彼女?

僕は”彼女”の風体を思い出す。女性にしては低い声。アッシュほどある身長。このうえなく女性らしい仕草。アッシュの嫌そうな顔。ボーンズの微妙な顔。そしてここは・・・男子トイレだ。

なんだ。

と僕は気が抜けた。”彼女”に嫉妬してアッシュを挑発した自分に恥ずかしくなる。『シン』まで引き合いに出したのに・・・。
皆の前であんな態度。結構度胸がいったんだよ。酔った勢いだったけど。
アッシュの腕の中で僕は小さく苦笑した。そして彼の腕から抜け出そうと身じろぎする。

その時手に持っていた写真がチラリと僕の視界に入った。


『OKエイジ。あんたの度胸にカンパイだ!』


手の中の”スキップ”が僕に呆れて笑った気がした。


スキップ。約束するよ。来年もまたここでー。



ーfinー






最後まで読んでくださってありがとうございます!
いやはや。とても楽しかった。(ケドとても疲れた(笑))
私。こんなにアッシュスキスキ光線を出してる英二を書くのはもうこれが最初で最後デスヨー。
”アッシュが好き”加減の度合いがわからなくて。難しかったです。
最初は・・英二がアッシュの袖をひっぱって上目遣いにかわいくアッシュの外出を引き止める。という短い妄想から始まったんですが。何がどうしてこうなった。
英二のシーンをカボチャさんに送ると、それのアッシュバージョンが速攻で返ってきて。しかもカボチャさんのところのアッシュだったんで。(カッコイイんだけど、怖くて、しかも英二に弱い。ってやつ)もうテンション上がりまくりました。
『どうなってもいいんですけど「俺が怖いか?」ってアッシュに言わせてください。』ってお願いしたら。
トイレに連れ込んだ!(笑)
たしかに怖い~~~www。とか思いました(笑)
すっごく楽しかったです!カボチャさん。最後までこのコラボに付き合ってくださってありがとうございました!感無量でございます!
そして、最後まで読んでくださった貴女。カボチャさんのブログに「カボチャ's director's cut 版」がございます。
お互いの小説でも切り取るところが違いましたので、別々に上げました。
そちらもぜひご覧くださいv。
それでは。お付き合いくださってありがとうございました~。

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2013.07.03 00:18 | # [ 編集 ]

★>文月絵魚様
読んでくださってしかも感想くださってありがとうございます~♪返コメ不要ということなのですが。一言だけ。

「すごいすご~い、楽しかったです♪ 」
ありがとうございます~^^。
私達もすごく楽しんで作りましたからそうコメいただけるとすっごいうれしいです♪

「英ちゃんの度胸に乾杯♪ 」
酔ったいきおいの度胸ですけどね!(笑)乾杯♪

それではうれしいコメントありがとうございました~。

2013.07.06 15:58 URL | 小葉 #jneLG44g [ 編集 ]

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