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Banana Recipes

漫画 BANANA FISH の2次創作ブログです。 BANANA FISH 好きの皆様と仲良くしていただければ嬉しいです♪一部BL・R18あります。ご注意を。

雨か・・。

朝はあんなに晴れていたのに、お昼を過ぎたあたりから雲行きが怪しくなった。そしてとうとう降り出した。
あれからこのアパートメントに戻ってすぐに君は2度寝を決め込んだ。そしてやっとベッドから起き出して、僕の作った朝食兼昼食を食べていた。今はもう3時のおやつも兼ねようかとういう時間だ。
僕は高級アパートメントのとても大きな窓ガラスに手をついて窓の外を眺めていた。視線の先にはセントラルパークの青々とした木々がある。目を眇めてそこにピンク色を見出そうと探すが見えない。

「どうした。」
何時の間にか背後にいた君に、後ろから声を掛けられる。少し振り向いた僕は君の質問に一瞬躊躇した。
「雨が・・・。」
「?」
「桜が散っちゃうな。と思って。」

君は少し目を見開き、お前はどんだけあの花が好きなんだと、軽く頭を振りながらため息を出した。やっぱり呆れられたか。だから言おうかどうか迷ったのだ。
僕は君に言い訳をする。日本ではテレビのニュースで桜が咲いたことが放送されるくらい皆が桜が好きなんだ。僕だけじゃないんだよ、と。
そして僕はまた窓の外を眺めた。
なんでもアメリカンサイズな君たちには理解できないと思うけどね。と心の中で呟く。

日本人にとって桜は特別だ。

テレビでは毎年必ず桜前線のニュースが放送される。
日本にいる頃はこれほど桜を気にしたことはなかった。毎年母や祖母が、近所のどこどこの桜が咲き始めたと食卓で話題に出していたのをテレビを見ながら聞き流した。
春になると咲いて散る。綺麗だけどそれだけだ。
だけど今、僕はNYの高級アパートメントにいながら桜にまつわるあれこれを思い浮かべていた。


子供の頃、母が作ったお弁当を持って花見客で賑わう大きな公園の桜の下で宴会をした。お弁当も食べてしまって花に飽きた妹と僕は追いかけっこをしながらその場所を離れてしまった。振り返るとどこの桜が僕たちの家族がいる場所かわからない。泣き始めた妹の手を引いて元の場所を探した。ホントは僕も泣きそうだった。

桜の開花は卒業式には遅すぎて、入学式には早すぎる。だけど別れと出会いのイメージにはなぜだか桜が付き物だ。
春休み。ほぼ誰もいない通学路。
陸上部の練習に出るために学校へとまっすぐに続く桜並木の下を自転車で走った。
部室に行ってももう先輩たちはいなんだなぁ。とか。今年新入生はどれだけ入部してくれるかなぁ。とか思いながら。

高校を卒業して東京の大学へとスポーツ推薦で進学した。
1人で上京した僕を、伊部さんが出版社の花見に誘ってくれた。東京でもきれいな桜が見れるんだ。
僕は新しい土地で棒高跳びをがんばろうと思った。


そして今年。


君と見た桜もまた格別で。


黙り込んで外を眺める僕に付き合って、君も雨に降られるセントラルパークを僕の肩越しに眺めていた。
そんな君に僕は声をかける。窓の外を見たまんまで。
「桜は夜も綺麗なんだ。”ヨザクラ”って言うんだよ。来年見に行こうか。」
黙ったままの君に僕は言葉を続ける。桜の下で宴会をするのが日本古来から続く慣わしなんだぜ。と微妙に適当な説明をした。
「僕がお弁当つくるよ。君はお酒を持って。ね。」
まだ黙ったままの君をいぶかしく思って僕は振り返る。すると君が僕をマジマジと見てこう言った。
「お前はこれ以上、オレの犯罪暦を増えさせるつもりか。」

は?僕は花見の話をしていたよな。

と僕自身の怪しい英語を振り返る。多分間違いない。よね?首を傾げた僕に君が話を続けた。
「ニュースで花が咲いたとか、どれだけ頭に花が咲いたお国柄だと思ったら、外で酒が飲めるなんてホントめでたい国だな。」
そう言えばNY州は外でお酒を飲むのは違法だったか。忘れてた。僕はバツが悪くなった。
「まぁ、いいけど。警察に捕まりそうになったら走って逃げるか。足には自信があるそうだしな。オニィチャンは。」

今朝のセントラルパークで、僕を捕まえてみろよと、君が僕を捕まえたらフィルムを渡すよと、言い放って逃げた僕は見事に君に捕まった。・・・君はその事を揶揄しているんだろう。ニヤニヤと笑っている君に僕は苦しい言い訳をする。
「カメラとレンズが重かったんだ!あんまり早く走ると鞄の中でぶつかって傷つくだろ!」
君は映画でよく外人がやっているような大げさな仕草で肩をすくめながら手を広げた。ー僕はアメリカに来て本当にアメリカ人はこういうオーバーリアクションを自然にするんだと関心していた。だがこれは明らかに僕を馬鹿にしてるんだ。違いないんだ。

「そうだね。オニィチャン。でも約束は約束だ。フィルム寄越せよ。」
「・・・・現像してからね。」
「なんだよそれ。」
「現像する前に渡すなんて一言も言ってないだろ。」
「現像した後に寄越すなんて一言も聞いてないぜ。」
「ならどっちだっていいだろ。あれは君の写真もあるけど桜だけの写真もあるんだよ。一本君だけを撮ったなんてウソだよウソ。信じたワケじゃないだろ?」
「・・・・」
君が黙り込んだ。

あれ?信じちゃってたのかい?

僕は少しおかしくなってしまった。顔に出たんだろう。君がプイと後ろを向いた。そのままソファに行って寝転がって図書館から借りてきているハードカバーを読み始める。

桜の下で眠る君がどれほど綺麗でも、さすがにフィルム一本分36枚も君にシャッターを切れないなぁ。と思った僕は頬が緩むのが止められなかった。でもまぁ。20枚は撮ったかも・・。

「コーヒー入れてくる。君も飲むだろ。」
もちろん君は返事をしない。これ以上君の機嫌を損ねたくない僕も黙ってキッチンへと行く。コーヒーサーバーにコーヒー豆をセットして考える。

花散らしの雨。か・・・。

子供の頃、今はもう亡くなった祖父が縁側で呟くのを聞いた。花散らしの雨。今年の桜も終わりだ。と。
『だけど英二。今年の桜が終わるということは来年の桜が咲くということだ。来年もまたじいちゃんと一緒に見に行こう。』
僕は祖父の膝の上で聞いた言葉を思い出す。

2つのマグカップにコーヒーを入れて両手に一つずつ持ちながら僕は君の元へと戻る。
ソファの前のテーブルにコーヒーを置いた。

寝転がって本を読んでいる君の長い足をソファーの外へと押し出した。いつもの事だから君も特段と抵抗はしない。
僕は空いたスペースに座ってコーヒーを飲みながら漫画を読む。
座りなおしたアッシュもコーヒーに手を伸ばす。

僕はふと窓の外を眺めた。強くないけど止まない雨。

コーヒーに口をつけた君が本から目を話さずぽつりと言った。
「来年見れるさ。」

君が話すとは思っていなかったので反応が遅れた僕に君が続けた。

「『ヨザクラ』。酒持っていくんだろ?」
「・・・そうだね・・。」

お酒はもういいけど。犯罪になるなら。

このアメリカで今年だとか来年だとか。桜が見られる僕は運がいいんだろう。
セントラルパークには来年も桜が咲くだろう。そしたら今度は散らない内に桜の下で宴会をしよう。春の少し冷たい気温の中で陽光に照らされた桜はきっと今日見た桜と同じくらい美しいはずだ。
君とボーンズとコングにアレックス。マックスや伊部さんも呼んで。
皆でやるなら昼間がいい。

彼らを誘うと言ったら君はきっとうんざりした顔になるだろう。でも文句を言いつつ反対はしないと思う。
皆で開くお花見はきっと楽しいものになるだろう。僕は賑やかなそれを想像して少し口元が緩む。

だけど夜桜は君と2人で。なんだかそれがいい気がするんだ。

僕は漫画に目を戻す。
外では雨が降っている。君と僕がページをめくる音と、コーヒーの香りだけがこの静かな部屋を満たしていた。


来年も君と一緒にー。











最後まで読んでくださって本当にありがとうございます。
16作目は、「英二。ホームシックにかかる。」の巻き。
例えば私が外国に住んでいたとして、桜が見れるとなるとどんなに遠くても見にいっちゃう自分がいると思うんですが、見ちゃうともう日本の事を思い出しちゃって仕方ないだろうなー。と思って。
本当はオマケ程度で短くするつもりが、オマケというにはちょっと長くなってしまったので、1作にカウントしちゃいました。えへ。
ちなみにセントラルパークには本当に桜があるそうです。「Cherry Blossoms 君はきれいだ。」を書く時調べましたw。でもNY州の法律でお酒は飲めないみたいですね。えー。酒のない花見なんてー。
私たち日本人は本当に桜が好きですね。好きではないにしろ嫌いという人は聞いたことありません。文章中にも書きましたがニュースで桜の開花を報道するなんて。外国の人は驚くそうです。花?ニュースで花?って。あとはアザラシが川にいたとか、市民権を取ったとらないとか。なんともおだやかな国だという印象を与えることがあるそうです。
桜の話題がそこかしこで上り、通勤通学途中で桜の花を見て、春限定の桜のお菓子などを食べ、ふとするとテレビからまたは店内のBGMから流れてくるたくさんの桜の曲を耳にしながら生活する。この時期はとても好きな季節であります。リンクスの皆とお花見したいですね。酒持って(笑)とムリヤリバナナで締めようとする管理人でしたw。今回も最後までお付き合いしてくださり誠にありがとうございました!
 

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2013.04.06 16:53 | # [ 編集 ]

>ちょこぱんだ様
ちょこばんださん。とてもうれしいコメントありがとうございました。
『君はきれいだ』も好きだったとコメしていただいて本当にうれしいです^^。

「調教」
(笑)そうそう。最初にちょっと笑う所を入れたかったんです。一番最初に書いた小説の一番最初に考えた2人の会話部分だから真剣に考えました。真剣にクスッと笑える会話を(笑)だから好きだって言ってくださるとうれしいなぁ。
「アッシュが甘えてる所も大好きです。」
私は英二に甘えるアッシュが大好きですw。大好きなんです!(←大事なところなので2回言ってみました。)

「アンニュイでノスタルジックな雰囲気」
(笑)またうまいこと言いますね(笑)
「雨」は・・。そうですよね。「君はきれいだ」と雰囲気が違うんです。
本当は「君はきれいだ。」のオマケが3つあって、「雨」は3話目なんですが、2話目で英二がふと家族の事を思いだしちゃうことが起る?という設定なんですね。そして3話目でホームシックにかかってる。という。
2話目がないから突然がらっと雰囲気がかわっちゃってるように見える・・。というのにアップ直前に気付きました><
1話目はできてるのでまたアップしますねー。オマケですからすごく短いしオチがないです。2話目はなんやかんやで出来ません。><

「足を退けて、自分が座る」
ふふふ。アンニュイでノスタルジックだけでは自分でもおもしろくないのです(笑)
アリですよねアリ。こんな2人の行動も!バナナな皆様(私を含む)にささやかなスパイスです。(本当にささやかですけど)

「負けず嫌いが強くなって来てる気が」
(笑)英二は負けず嫌いだと思います!だってでないと大きな大会で1位を争えないと思うんですよね。戦いに勝てる人って見かけや態度はどうであれ負けず嫌いな気がしますww。

「来年も、連れて行ってあげて下さいね。小葉さんっ」
ら・・来年?来年ってあるのか?この2人に・・。(と、自作年表を見てみる)そうか。あってもおかしくないかぁ。1年目は多分アッシュが刑務所に入ってたと思うんですが、2年目にこの話があるとすると3年目の1987年にもう一回春があるかも。でも私なんとなくアッシュって1987年の春に亡くなったと思うのですよね。なんでだろ?フォックス戦の英二の服装が冬服っぽいからか。REBIRTHでは初秋予測ですねぇ。秋なのかなぁ。
・・って本当に今ふと思ったんですけどもしかして”来年も”って修飾語は”小葉さん”に係ってる?まぁそこんところはお約束できないですけど、2人の来年っていうか、ヨザクラはif設定で見に行ってもらってもいいかなぁと思いました。^^。うーん。簡単な想像が今出来た。忘れないうちにメモっとこっと。

それでは。うれしいコメントありがとうございました!

2013.04.07 14:09 URL | 小葉 #jneLG44g [ 編集 ]

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2013.04.29 01:38 | # [ 編集 ]

>aia様へ
コメントありがとうございます!
いえいえ。どんだけ遅くなってもコメントは嬉しいものですよー。本当にありがとうございます!

「他の小葉さんのお話とはちょっと書き方が違うような感じで、新鮮でした。」
そうですねー。これだけ雰囲気が違いますよね。やっぱりaiaさんわかりました?
多分これは「バナナっぽくない」んだと思います。
いつもは、「アッシュと英二ならこうするだろ。いやこうはしないだろ。こんなセリフはいわないだろ。いやこっちのセリフの方が”らしい”かも。」そしてお話として「こういう話はありそうだ。なさそうだ。」と考えていくのですが、今回は書きたいものを書いちゃったのです。春だし・・。桜だし・・。日本人だし・・。

上記のちょこぱんだ様のコメントにも書かせていただきましたが、桜のオマケ3話のうちの3話目でして、2話目で英二がホームシックになる事が起るハズなんですが、そこをすっとばしてのこの話なので、ますます浮いたカンジになってしまって・・。
でもできちゃったし所詮2次創作だからまぁいいか。とアップしちゃいました。(2話目は書く予定がないです)
だからウケが悪かろうと思っていたのですが、そんなこともないようで。桜の話だからかなぁ。皆様のやさしさが嬉しいです^^。ありがとうございます。

「フィルム一本アッシュを撮ったって言う~こういうアッシュは私の萌えツボビンゴ~カワイイんだから~vv」
ふふふ~。そうでしょそうでしょ?アッシュかわいいですよね~。(*≧▽≦)かわいいアッシュが好きなんですよね~。英二もきっと、そんなアッシュが堪らないと思うんですよね~(笑)
かわいいアッシュ。もっと書きたい。書いていいですか?(笑)

「「ホントは僕も泣きそうだった。」~小葉さんの書く、こういう英二がたまらなく好きっvv」
私もそんな英二に賛同してくださるaiaさんがたまらなく好きっっvvv

「何気なーくアッシュなりの優しさを向けるところ~キュンキュンですねvv」
そうそう。あらかさまな優しさじゃないところに私の萌えが(笑)。アッシュ。そのツンデレ加減。

そして、aiaさん。あと何十回と桜はみれますよ!寂しいこといわないでくださいよ!
うちのアッシュでよければ数名連れて行きますからみんなで宴会しましょう(笑)
英二にごはん作ってもらって、アッシュにお酒もってきてもらって、私はカメラを用意します!(笑)

それでは、楽しいけどちょっぴりしんみりしたコメントありがとうございました~。


2013.04.29 22:59 URL | 小葉 #jneLG44g [ 編集 ]

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2014.04.04 15:55 | # [ 編集 ]

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