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Banana Recipes

漫画 BANANA FISH の2次創作ブログです。 BANANA FISH 好きの皆様と仲良くしていただければ嬉しいです♪一部BL・R18あります。ご注意を。

いつもの通りアッシュは叩き起こされた。ようだ。

自分では知らないうちに食卓に座っている。だが、起きているか寝ているかの境界線が実に曖昧だ。曖昧だということさえわかっていない。
とりあえず目の前の丸い物体を切ろうとフォークとナイフを持つ。
そんな彼の右斜め後方から手が伸びて、目の前に黒い飲み物がコトリと置かれた。
コーヒーのようだ。
アッシュの為にコーヒーを用意したその手の人物は食卓の向かいに回り、椅子を引いてそこに座る。今度はその手でテーブルに新聞を広げた。だがその手の主は新聞には目をやらず両肘をついて少し身を乗り出し、こちらを見てアッシュに話しかける。
「今日は初めてパンケーキを焼いてみたんだぜ。」

パンケーキ・・・。

のろのろとアッシュは目の前の丸い物体を切ろうとフォークとナイフを動かす。そんな彼の様子をしばらく黙って見ていた影がアッシュに話しかけた。
「・・・君。今、自分が何しようとしてるかわかってる?」
英語のネイティブスピーカーではない目の前の彼に、下手な発音で尋ねられても起き抜けのアッシュの耳には入ってこなかった。例えそれがニュースキャスターが話す完璧な英語であったとしてもアッシュの耳には入ってこないのだが。
「ナイフで押さえてフォークで切ろうとしているよ?」

それの何が悪いんだ。

「シャワーを先に浴びてきたらどうだい?」
そこそこ丸くきれいに焼けているパンケーキを、アッシュはフォークでグチャグチャと切っていく。そしてナイフで突き刺したそれを器用に持ち上げ、口に入れようとした。それは危ない、口の中が切れるよ。と慌ててテーブルを回り、アッシュの隣に立った同居人にフォークとナイフを取り上げられる。

オレのパンケーキ・・。と小さく呟く。

「シャワー浴びてからね。」
後ろから脇に手を差し入れられた。かと思うと、引っ張り上げられ立たされた。

パンケーキ・・・。

明らかに思考が回っていないアッシュは背中を押されてバスルームに押し込まれたのだった。




********



アッシュはシャワーを浴びて出てきた。目もすっかり覚めたようだ。シャワーで濡れて煌めくプラチナブロンドの髪を乱暴にタオルで拭きながら食卓へと歩く。黙って椅子を引いて座り、英二に手渡された新聞をサンクスと短く言って手に取った。
「今日はパンケーキか。」
「さっき言ったよ。」
「お前これひっくり返すの失敗したのか?ぐちゃぐちゃだぜ?」
「・・・・・」
「コーヒー冷めてる。」
英二は全てを諦めたかのようなため息をついた。
席を立って温かいコーヒーを用意しに行く。そんな同居人を横目にアッシュはパンケーキにフォークを突き刺した。すでに歪な形に切れているそれを持ち上げジッと見る。

パンケーキか・・。

そしてその崩れたパンケーキを食べていると、脇から芳ばしい香りのコーヒーがテーブルに置かれた。
自分の目の前にコーヒーを置いた英二に、何の脈絡もなくアッシュは質問をする。
「お前、フレンチトースト作れるか?」
「は?」
英二は少し戸惑った。
「フランスのトースト?」
「いや。知らないならいいんだ。」
置かれたコーヒーからは温かい湯気が立ち上っている。それを手に取りコーヒーを口につけ、新聞を読みながらアッシュは考える。
日本人である英二はアメリカではメジャーな食事がわからない事も多い。フレンチトーストはフランスのトーストではなく、フレンチという人物が彼の酒場で出すそれに名前をつけたものだ。ちなみに彼はアメリカ人だ。そんなことはアメリカ人でも知っているかどうかはわからないが、英二の今の反応からして、その食べ物自体を知らないのだと思われる。知らないなら知らないでいい。
だが何気なく聞いたつもりの言葉に英二が反応した。
「ねぇ。それって君の”お願い”?作って欲しいのかい?」

?・・ああ・・。とアッシュは思い出す。

そう言えば昨日そんな約束をした。

腕相撲で負けた方が勝ったほうの言うことをなんでも聞く、と約束してから勝負をしてアッシュが勝った。だが寝起きのアッシュの頭からはそんなことはすっかり飛んでいた。英二に言われて思い出す。正直アッシュは英二にして欲しいことなど何もない。このまま英二が言い出さなければ忘れていたかもしれない。だが彼はアッシュが思っているよりも昨日の約束を気にしているのだろう。あれほど嫌がっていたのに。アッシュには英二のそんなところがおもしろい。

言わなきゃいいのにな。と薄く微笑む。

このままアッシュが言い出さなければ、なかったこととして、そのまま素知らぬ顔で日々を過ごしていけばそれでいい、などと思いもよらないのだろうか。
優しげな見かけの割には負けん気が強く、幼く見える割には責任感があり、外見通り真面目な日本人の友人にアッシュは内心苦笑した。
英二へのお願いは別にそれーフレンチトーストを作るーでもいいけどな。と思いつつ、だがやっぱりやめることにした。
「何?早く”お願い ”して欲しいの?オニイチャン。気になってんだ?」
「なければなくていいさ。くだらないこと頼まれるならね!」
からかいを含んだアッシュの物言いにムッとして英二は答えた。
そして、アッシュは目の前のパンケーキを黙って食べながら考える。
―――願い事願い事・・。こいつにやって欲しい事?
しかし、食べ終わってもやはり”お願い”は思い浮かばず、今日は遅くなるから先に寝てろと言い置いて、ジャケットを片手に外へ出たのだ。



**********



小さい頃、朝食に並んだのは主に厚く切った食パンだった。あと卵とベーコンと牛乳。
一度、グリフィンにパンケーキが食べたいとねだったことがある。
だがグリフィンが作ってくれたのはなぜだかフレンチトーストだった。
パンケーキが食べたかったのにどうしてなの、とわがままを言って困らせた。パンケーキは作るのが難しいのだろうか、そういえば英二が作ったのも形が崩れていたな。と考える。
だがグリフィンが作ったフレンチトーストを一口食べてからアッシュはフレンチトーストが大好きになった。
たっぷりかけられたメイプルシロップとシュガーパウダー。
グリフィンは牛乳で溶いた卵に食パンを一晩つけて、日曜の朝にフライパンで焼いてくれた。熱されたフライパンに投げ入れられたバターが焼ける小気味良い音と芳しい香りがキッチンを満たす。待ちきれないアッシュはフライパンを持つ兄の足元をチョロチョロと回り、危ないからおとなしく待っていなさいと窘められたものだ。
叱られてすごすごと食卓に戻り、座って待っていたアッシュの目の前に焼きたてのフレンチトーストが置かれる。

するとグリフィンが必ずアッシュに聞いてくれたのだ。
―――アスラン、メープルシロップはどこまでかける?ストップって言って?
ん~~~っストップ!
―――シュガーパウダーはこれでいいかい?
もっと!
―――これくらい?
もっと!いっぱいかけて!
「これ以上・・。」
真っ白になるくらい!
「これじゃトーストなんだか砂糖なんだかわからないよ・・。」
メープルシロップでダクダクになったフレンチトーストが真っ白になるまでシュガーパウダーをかけてもらう。そしてアッシュは嬉々としてそれにぱくついた。

甘い甘いフレンチトースト。優しい兄との思い出。




「おいしいかい?アッシュ。」
甘い・・。
「そりゃ、あれだけメイプルシロップかけた後でそれだけパウダーシュガーかけりゃね。これはやりすぎだと思うけど、でもこういう食べ物なんだろ?君たちアメリカ人の味覚は本当に極端だよな。」
アッシュはあまりの甘さで目が覚めた。

目の前には、食べかけのフレンチトーストがあった。

どうやら夢ではないようだ。
ここは英二と住む高級アパートメントの食卓。目の前にいるのは英二だ。
「なんだこれ・・。甘すぎ。」
「何って、君寝ぼけるのもいいかげんにしろよ。メイプルシロップもシュガーパウダーも君がこれだけかけろっていったんだろ?」

アレは夢ではなかったのか。

「・・・・。」
アッシュは黙って、だが残さずそれを食べ切った。
「人の舌って、変わるもんだな。」
「うまかったかい?」
「甘かった。」
「なんだよ。それ。」
「目が覚めたぜ。アリガトウ。」
アッシュは英二に明らかにそれとわかる作り笑いを作って見せた。
なんだい。近所の人にレシピを聞いてまで作ったのに。とブツブツ呟く英二の文句を聞きながらアッシュは口の中に残った甘さをコーヒーで流し込む。足りない。
「英二。コーヒー。」
ジロリと英二はアッシュを睨む。
こういう言い方をすると、いつも英二に ”僕はコーヒじゃないんだけど” と文句を言われるのだ。だが今日は何も言わずに睨まれた。仕方なしにアッシュは言葉を続ける。
「・・・いれてくれ。」
「ハイハイハイ。」
アッシュからカップを手に取り英二はキッチンカウンターへと向かう。そして数歩歩いた後、アッシュを振り向きこう言った。
「これで君の”お願い”は終わったよね?」
「”お願い”?俺はフレンチトーストを作ってくれなんて言ってないぜ?」
「違うよ。今。”Coffee,please.”って言った。」
「・・・・。」

「よね?」


そういえば昨日、フレンチトーストがアッシュの”お願い”かどうかという話になったとき英二が文句を言い始めた。
『君の”お願い”なんてそれこそしょっちゅう聞いてるからどれがどれかわかんないぜ。』
『俺が?』
『そうさ。』
『何を。』
『英二、新聞とって。英二、ビールとって。英二、電話鳴ってる。英二、タオルがない。エトセトラエトセトラ・・・。』
『・・・』
アッシュは少しムッとした。ムッとした理由は英二の言っている事が本当の事で言い返せない、ということだけではなく、この日本の友人が軽く自分のモノマネをしていたからだ。このモノマネは意外にリンクス達にウケがいいのをアッシュは知らない。
黙り込んだアッシュに英二は気を良くしたのか、おどけて肩をすくめ、ニコリと笑ってさらに言葉を続けた。
『わかった。じゃあ。今回、僕にお願いするときは絶対Pleaseって言いなよ。言ったら言うこと聞いてやるさ。』

そして今、アッシュは確かに言ったのだ。Pleaseと。

英二は得意げな笑みを口元に浮かべた。
「何杯でもいれてやるよ?おかわりも言ってイイぜ?」
と言って機嫌良くキッチンカウンターへと向かう。
少しの間目を見開き、アッシュは軽い息を吐いた。

人の揚げ足とりやがって。

まあいいか。と思う。そして新聞に目をやる。自分から言い出した”何でもいうことを聞く”という条件だが、それは彼をからかうのが目的で、その実効については元々何も考えていなかった。

――― ”お願い”か・・。

コーヒーを片手に英二がアッシュの元へと戻ってくる。
「ねぇ君。今日は図書館に行くって言ってたろ?」

―――以前ひとつだけ口から出た”願い”がある。

「ねぇアッシュ聞いてる?」

―――その願いに英二はためらいもなく頷いた。

「一緒に行っていいかい?」

一緒に・・。

「オニィチャンを連れて行くとウルサイからな。そうだ。ボクの本当の”お願い”聞いてくれる?」
「さっき聞いたろ?」
「あんなの無効だ。」
なら腕相撲をあんな勝ち方したきみこそ無効だ!と英二が口を開いて言い出すだろう前にアッシュが畳み掛ける。
「図書館ではボクが読み終わるまで大人しく待っていてくれる?」
英二は反論の口を閉じる。その彼の黒い瞳を正面から見ながらアッシュは言った。
「Please.」

ーーーーー!

まるで子供に言い聞かすようなアッシュの口調に、なによりいつも早く帰ろうと言い出す英二は痛いところをつかれてムッとする。。英二はアッシュが食べ終わった食器を乱暴に片付け始めた。不貞腐れた英二にアッシュが声をかける。
「コーヒー飲んだらすぐ出るぜ?カメラの用意しろよ。」
「いいの?」
食器を持ったまま流し台まで行こうとした英二が振り返る。
アッシュはもちろん知っていた。英二は図書館に行きたいのではないのだ。その途中の街並みを、図書館の帰り道にセントラルパークで写真を撮りたいのだ。
「図書館でー」
「君の邪魔しなければね。だろ?」
しつこいよ。アッシュ。と言いながら少し笑って英二は流し台まで歩いていった。どうやら機嫌はなおったようだ。
アッシュは軽く息をつく。
やれやれ、願いが叶ったのはどちらなのか。
英二はその足でリビングの窓際まで行った。三脚に設置されていたカメラをそこから外し、フィルムの残数のチェックをして、1本のフィルムをポケットに入れた。そしてアッシュに声をかける。
「お待たせ。」
いつもの英二の穏やかな笑みがアッシュに向けられた。
アッシュはコーヒーと新聞をテーブルに置いて立ち上がる。2人で玄関へと向かった。
昨日の英二の言葉を思い出す。

『それって君のお願い?』

―――俺の願いは。

「行くか。」
コートハンガーに掛けられていたジャケットを羽織り、アッシュは手の中で鍵を鳴らした。アッシュが開けたドアから2人が出て行く。そしてバタンと扉が閉められ2人が見えなくなった。
誰もいない玄関にガチャリと外から鍵が掛けられる音が響く。

―――本当の願いは。

そして、2人の足音が遠ざかり、エレベーターホールへと消えていった。




















『”そばにいてくれ”ともう一度言わせたいのか?』





















キャー!愛の告白キター!と(原作で)思ったバナナ女子は数知れず(だと勝手に思う)。そんな貴女に最後まで読んでくださってありがとうございます。感謝の言葉を送ります。小葉です。
今回アッシュの”お願い”を考えるにあたり、ーそれはもう真剣に考えたんですよー。やっぱりアッシュは英二にそんなにお願いなんてないだろうなぁ。と思って悩みつくしてこんなカンジに。ある意味逃げた。ハハハ。

それと”Please”を小ネタに使っていることですが、ワタクシ英語圏で暮らしたことないもんで、微妙なニュアンスとかわからないから、なんか違ってたら許してください。”Coffee,please”とか飛行機の中の日本人かよ。と思うのですが・・。洋画とか観ていると、たまに”ナントカカントカ・・・Pleeeeeeeeease”と聞こえてくるときもあるのでこういうpleaseネタ使いもアリかなぁ?と思って。
英語圏で暮らした経験のある方ぜひ教えてください。このネタは有効かどうか。
ちなみにクリスマスネタで使ったグリフィンがアッシュに怒ったときに言った”Now”ってやつですが、あれも洋画でよく見る・・。

なんか今回あとがきの内容がブレておりますが、小説は楽しんでいただけましたでしょうか?(と取ってつける)。ちなみに今回のアッシュは、コーヒーに留まらず、新聞、電話、あらゆるものを英二にとらせている設定にしておりますが、実はアッシュって自分で色々やりそうだよなぁ。とも思ってます。「コーヒーのおかわりいる?」って英二に聞かれても「いやいい。自分でいれる。」と席を立ちそう。結構そういうのにも萌えるんですよねー。そこはほら2次創作ですからいろんなアッシュがいてもいいと思います!貴女はどちらのアッシュがお好みでしょうか?まぁ。細かい事は気にしないで楽しんでいただけたら幸いです。ぜひ。それでひとつよろしくお願いします。
それでは。今回も最後までお付き合いしてくださった方、本当に本当にありがとうございました~^^。

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2013.03.24 13:36 | # [ 編集 ]

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